第11章 起点
「お祭りねぇ…。もしかしたら祭り本番の頃には、彼も移動するかもしれないわね。祭りって人が集まってくるし…」
そうなると裏路地にいても必然的に人と出くわすことも多くなるだろうし、隠れて過ごすにはむていない。
「できるだけ今のうちに見つけ出す必要があるな…。そう何日も時間をかける余裕がない。」
リョンへは眉間に皺を寄せてそう言った。そうなるのは不本意だからだろう。
三人であてもなく細い路地を歩く。そうすると視界が開けて、町の広場についた。
「この道、広場に繋がっていたんだ…」
ハヨンは急に周りが明るくなったので、眩しそうに少し目を瞬かせながら呟く。まだまだ路地がどう繋がっているのかわからない所が多い。
広場の真ん中には、やぐらの骨組みだけが組み立てられている。きっと祭りに使うために、準備をしているのだ。広場のあちこちで、人々が篝火など祭りに使うものを用意している。
「祭りなんて滅多に行ったことが無かったが…。どこでもやぐらを建てるものなのか?」
「どうなんでしょう…。私の故郷にもやぐらはありましたが…。他の地域の祭りに行ったことが無いものでして。」
ハヨンはリョンヘに尋ねられたので、考えてはみたが、他所の祭りの話など人と話したことがなかったのでわからなかった。
「私はそもそもやぐら?を見るのが初めてねぇ。まぁ、私が住んでたとこじゃ、毎日祭りみたいに人が浮かれてたけど…」
「ムニルさんって料理屋で働いてたんだよね。何だか平和そうな町だね…」
ハヨンは首をかしげる。近年は凶作が続いたせいであまり人々の表情も明るくない。そのため、祭りの日だけはみな歌い躍り、辛さを忘れると言う所も多い。
(それだけ人々の暮らしも豊かなのかな…。今どき珍しい話。)
「平和ね…。本当にそうなのかはちょっとわからないけれど…。まぁそうなのかもね。」
ムニルは笑顔でそう返したものの、どこか歯切れの悪い。ハヨンはその事に疑問を持ったが、あまり触れてはいけない気もして黙っていた。
リョンへはというと、やぐらが気になるらしく、そちらに向かって歩き出していた。そしてやぐらから二歩(歩は尺貫法の単位。一歩で約1.6m)程離れたところで立ち止まる。