第11章 起点
「まぁねぇ…それに、白虎の場合は、自分のことを白虎だと思っていないから、なぜこんなにも私達に追われているのかわからなくて余計に混乱するでしょうしねぇ…。多少手間がかかってもしょうがないのはわかるんだけどね…」
「ムニルの場合は、髪を短く切ってしまえば、だいぶん楽になると思うぞ。」
リョンへがからかうようにそう言った。その言葉でムニルは肩を跳ねさせ、勢いよく自分の髪を腕のなかに抱え込む。
「これは私の大事な髪だから、そんなことしないわよ!というか、私が髪を短くしたら、美しさが半減するでしょ!」
ハヨンは笑いを押し殺した。見た目だけでは本当に優雅な男性なのだが、ムニルの乙女のような発言が何だか可愛らしかったからだ。
(たしかに、短髪にしたら、ムニルさんって凛々しくなりそう…。どっちにしても似合うとは思うけど)
ハヨンはムニルの短髪姿を思い浮かべる。中性的な整った顔は似合う髪型も多いので、得なのかもしれない。
その時、笛の音が聞こえてきた。それは一つだけではない。どこかで大勢の人が演奏しているようだ。
「これは何なんでしょうね…?」
ハヨンは首をかしげる。
「お祭りの準備をしてるってさっき町で聞いたから、多分練習なんじゃないかしら?」
ムニルの言葉でハヨンは合点がいった。道理で町の人々が屋台に装飾をつけたりと慌ただしかったわけである。
秋に行う祭りと言えば、無事稲の収穫を終えたことを神に感謝する祭りだろう。ハヨンも何度か母のチャンヒや師匠であるヨウと連れ立って参加したものだ。ハヨンは毎年恒例の子供たちと共に笛での演奏には出なかったが、舞や屋台の裏方としてヨウと共に駆けずり回ったことが多かった。
(懐かしいな…。母さんも、ヨウさんも元気にしているだろうか…)
長い間会えていない大切な人たちに思いを馳せると、少し胸が痛かった。忙しいのと、敵に監視されていては不味いのでこっそり会いに行けないのも相まって、ハヨンは母やヨウとの連絡がとんと途絶えている。
どれ程心配しているだろうと思わず感傷的になってしまった。
(この城での反逆行為は、私達だけの問題ではない…。きっとたくさんの人が心を痛めている…。何としても早く解決しないと…)
ハヨンは白虎に力を貸して欲しいと言う思いが、ますますつのるのだった。