第11章 起点
「は!?」
白虎がいきなり立ち止まって振り返る。その顔は驚愕の色が浮かんでいた。
今まで人々に煙たがられて来た白虎にとって、思いもしない言葉だったのだろう。
そのまま追い付けるかとハヨンは思ったが、やはりそううまくはいかない。先程よりも少し差は縮まったが、白虎が先を走っている。
「一度でいいから、私たち…リョンヘ様の話を聴いて欲しい。お願い!」
ハヨンは慌ててそう言った。この先からは、屋根が低くなっていることを思い出したのだ。町のことを知りつくし、屋根の上も路地裏も駆け抜けられる白虎と比べれば、圧倒的に不利だからだ。そして、先程よりも周囲が明るくなり、低い屋根が建ち並ぶ裏路地に入る。
案の定、白虎は屋根に飛び乗り、その上を走っていってしまった。
(相変わらずとんでもない跳躍力だな…)
ハヨンが屋根に登るには、雨どいなどいろいろと掴んで、よじ登って行くしかない。これでは白虎は遠く先に逃げてしまっているだろう。
ハヨンはもといた場所へと帰ることにした。自分の主や、ムニルを放置してきたことを思い出したからだ。
(いや…、あの二人なら大丈夫だとは思うけど…)
その予感は的中し、すぐに二人と落ち合えた。どうやらハヨン達をそのまま追っていたようだ。
「…白虎はどうなった?」
リョンへが肩で息をしながら開口一番にそう尋ねてくる。
「…逃げられました。ただ、リョンへ様が白虎と話したいことがあるということと、仲間になって欲しいという旨は伝えました。」
ハヨンはそう端的に伝えた。しばらく三人の間に沈黙がおりる。ひたすら全速力で駆け抜けたので、話す気力が無かったからだ。
「何というかまぁ、私があなた達のもとに加わったときは血生臭かったけれど、今回は汗臭いわね。」
ムニルはそう言って額に貼りついた髪を払った。男性はおろか、女性と比べても長髪に入るであろうその髪は、たしかに走ることには適していない。
「お前達は強い力を持っているから、厄介なことに巻き込まれやすい。その上、私たちが無理矢理会いに行って、頼み込んでいるのだから、苦労なしではいかないだろう。」
リョンへは苦笑いしながらそう答える。