第11章 起点
次の日からハヨン達は捜索を三人のみで行ったが、白虎は以前の苦労が嘘のように容易く見つかるようになった。
それは多分、人に訪ねて回るのをやめて、裏路地ばかり探すようになったことと、孤児院の院長であった老人に教えてもらった、白虎の主な生活範囲を教えてもらったからもあった。
ただ、白虎はハヨン達の姿を覚えてしまったので、一目見ただけで屋根づたいに逃げるようになってしまったが。
「うーん、白虎の足が速すぎる…」
ちょうど今、白虎を見失ったハヨンは自分の頭をぐしゃぐしゃと掻き乱す。
「私も竜の姿に戻れば一発で追い付くんだけどねぇ…」
ムニルは慰めるようにハヨンの肩を叩きながら、湿っぽいため息をついた。と、その時前を歩いていたリョンへが勢いよく振り返る。
「何があってもそれだけはやめてくれよ。そんなことしたらそこらじゅうの家が軒並み全壊だし、町の人が取り乱す。」
「やぁねぇ、そんなことわかってるからしないわよ。まぁ、それはそれで伝説になって面白そうだけど。」
たしかに、そんな事件が起これば、 竜到来の地獄絵図 等と言う絵巻物でもできかねない。
ハヨンはその正体がムニルだと考えると、なぜだか一大事の話なのに笑えてしまった。きっと中身との落差が大きいためだろう。
冗談めかして言うムニルを、リョンへは怪しいと言わんばかりの視線で見る。
「まぁ、わかってるなら大丈夫か」
とくるりと向きを変え、先に歩きだした。
「ねぇ、ハヨン。王子ってあんなにのりのよさそうな男だったかしら?最近妙に彼、砕けた雰囲気があるんだけれど。」
ムニルはリョンヘに聞かれてはまずいのか、声を潜めて話しかけてくる。ハヨンはムニルにリョンヘの本当の性格を教えても良いものなのか少しの間だけ考え込んだ。
しかし、ムニルはそもそも王族を敬うという考えを持たぬ人間の部類である上に、これからもずっと関わっていく人なのだから、ある程度リョンヘの化けの皮が外れてしまっても大丈夫だろう。
「リョンへ様は真面目な方ではあるけど、存外親しみやすい方だよ。公務の時以外は結構砕けてるんだけど、今はずっと気を張ってるから、ムニルさんはあんまりリョンヘ様のそういう所を見たことないもんね。」