第11章 起点
「それで白虎に見とれてたハヨンの様子を見て、リョンへ王子はどうしてだかつまらなさそうだったわよねー」
とムニルがニヤニヤしながらリョンへに視線を投げる。ハヨンはそれを聴いてどきりとした。
(…私は何を期待しているのだろう…)
最近あることを自覚し始めていたが、どうしようもないことだとわかっていたので、ハヨンはあえてそのことを考えないようにしている。そのことは自分ではどうしようも出来ないことだからだ。
ハヨンもリョンへに目を向けたが、彼は一人で考え込んでいた。
「あら?何かあったの?」
ムニルもリョンへが先ほどの会話に混ざっていると思っていたので、驚いた表情をみせていた。
「…。いや、白虎の捜索はこのまま私たちの班だけで続行すべきではないかと思ってな。」
リョンへは周囲の部下を見渡しながらそう低い声で言った。
「早く見つけ出したいからこの人数を動員したんじゃろう?なんだって急に…」
老婆はそう言いながら湯飲みに入った茶をすする。
「白虎の心の傷は思った以上に深そうだ。声をかけるのでさえ苦労する。その上に入れ替わり立ち替わり捜索隊の面々が話しかければ、白虎は逃げてしまうかもしれないだろう?それだったら特定の人物が積極的に関わって打ち解けた方がいい。」
「そうですね…。大勢から探されていると思うと余計に怖いですしね…」
ハヨンもリョンへに同意した。
「そうねえ…。今日の様子だと、みんなが白虎を恐れているように、白虎も人を恐れているように見えたしね…。」
ムニルは天井を仰いでうーん、と唸った。
「ならばお前ら以外は撤退か?」
老婆はそう言ってから肩を叩く。どうやら遠出して慣れない環境にいるからか、最近疲れ気味らしい。
体力の底知れない、得体の知れぬ老婆なので、どこまでが本当かはわからないが。
「そうなるな。あなたは残ってもらっても構わないが…。どうする?」
リョンへは老婆に尋ねた。
「わしは出る幕はなさそうだから、今回は帰るとするかね。朗報を待ってるよ。」
そうやって笑う表情は明るくて、年老いた老婆には見えなかった。