第11章 起点
ハヨン達はその後、老人に白虎が今寝床としているであろう場所を教えてもらった。どうやら彼は赤架のいくつかの町の決まった場所を転々と移動しているらしい。
三人は老人に感謝を伝え、他の捜索している面々と落ち合うために赤架の中心部に戻った。
「ほほう…。白虎と顔をあわせたのじゃな?」
一人宿で待機していた老婆はにやりと笑った。
「はい。髪や肌が白くて、とても美しい人でした。」
ハヨンは彼の姿を思い出しながらそう答える。きっと身なりにもっと気を使える余裕があれば、よりその美しさは顕著になるだろう。
「もー、この子ったら白虎に会ってから始終こんな感じだから、私はてっきり惚れちゃったのかと思ったわよ。」
ムニルは少し冗談めかしてハヨンの背中を叩きながらそう言った。見た目がしとやかなムニルだが、腕力はやはり男そのもので、不意打ちだったハヨンには少し痛かった。
「ふーん?もともと顔立ちのいい男に囲まれてるこの子がねぇ。それなら容姿はずば抜けているんだろうさ。」
「私は別に…。白虎とは仲良くなりたいとは思っていますけど、恋なんてそんな感情は抱いてないです。」
二人ににやにやされながらそう言われると、ハヨンは少しむきになって答えてしまった。
(恋なんて今も王城でも縁遠いものだしなぁ。)
ハヨンは後宮で愛する者のために一生懸命な女性の姿を見てきた。その頑張りはハヨンから見ても微笑ましいものだった。しかし、ハヨンは一生王族に盾として剣としてこの身を捧げるつもりだったので、誰かと結婚しよう等とは毛頭無かった。
一度は妙な貴族に付きまとわれ、芸人の姿をしていたリョンもといリョンヘに恋人のふりはしてはもらっていたが…。
(そう言えば私は、リョンとは今も偽の恋人なのだろうか。)
そこまで考えてハヨンははっと気づいた。城に戻れなくなってから、リョンへはリョンとして身分を偽ることは無くなってしまった。もし仮に、リョンへがリョンとして過ごすのならば、ハヨンをどう扱うのだろうか。
(どうって…。もうあの人も私に付きまとうことは無いんだから、リョンは恋人のふりをする必要は無いよね…)
なぜかそれが残念に思えてきて、ハヨンは首を傾げた。