第2章 異変
龍はハヨン達のもとへ行くとぴたりと動きを止めた。みな声を出せば殺されると思っているのか息さえも詰めている。
そして龍は城の兵に向き直ると、口を開き、なんと霧を吐き出した。城の兵達は混乱し、互いを呼びあったり、戦いを続けようとしたり、それを諌めようとしたりと様々な声が飛び交う。
龍の背後にいたハヨン達と残りの敵兵は難を逃れる。
しかしその場の兵達は龍への恐怖ですっかり戦意を失っていた。
「今のうちに逃げましょう!」
ハヨンが叫ぶと、
「どこに行くあてがあると言うのだ」
とセチャンが即座に返してきた。どうやらセチャンもその事を悩んでいたらしい。
「孟群」
リョンヘの低い声が聞こえて二人は振り返った。
「あそこは私の直轄地だ。父上がご崩御なさり、直後にリョンヤンが起ったなら、まだ城内は体制がしっかりとは整っていないだろう。私が孟を治めていることになっているはずだ。そうなるとやすやす民も手出しできん」
この国は群という単位でいくつか分割し、そこに領主がいる。その領主のうちの何人かは、王子が請け負うのだ。
群には国王の住まう城程ではないが、堀等もある城があるし、そこでなら体勢を立て直して、今後のことを考えることもできそうだ。
「孟まで共に行けるものはいるか。」
セチャンの問いで手を挙げたものはざっと五十名。行けないものの多くが、手負いだからというのが辛い。五十名でこのはかりしれない敵は討てないからだ。
「行けるものは共に孟に行こう。行けない者は…できるだけ遠くに逃げろ。何か手を貸したいがあいにく何も手だてがない。お前達はきっと追われてしまう。しかしもし傷が癒え、何かあったときは、孟に来てくれ。私ができる限りお前たちを保護するから。もちろん家族も含めてな」
リョンヘはそう言って近くにいた負傷兵の肩に手をのせる。
「どうか無事でな」
「王子もご武運を」
そしてみなが走り出そうとしたとき、龍が鳴いた。