第2章 異変
ハヨンは腕に怪我を負いながらも闘い続ける。みなの動きが一斉に止まったのは次の一声だった。
「リョンヘ王子、ご覚悟!」
あるものの槍の穂先がリョンヘの首すれすれのところにあった。
これでハヨン達は無闇に手だしできなくなった。
(どうする、ここで終わりなのか…)
ハヨンが歯ぎしりしたときに、側の堀から多数の叫び声が聴こえた。叫び声というよりも絶叫に近い。みなの視線が一斉にそちらに向けられた。
「り、龍だ!」
そんな伝説の生き物がそうやすやすと現れるものか、とハヨンは言いたくなったが、翔んできたものはまさしく龍だった。
若葉のような萌える碧をもつ龍。
(伝説の通りだとすると…青龍だ)
ハヨンはまだこの事態を飲み込めていなかった。
(この龍は私たちがしていることをお怒りになって、天罰を下すのだろうか…)
ある者は持ち場から逃げ出し、剣を構える者もいた。その中でハヨンは何もしなかった。いや、できなかったというのが正しいかもしれない。
なぜだか仲間だから龍に手を出してはならない、ととっさに思ったのだ。
「何をしている!城を壊されたらどうするのだ!みな矢を放て!」
城のものが矢をつがえ一斉に放つ。しかし龍は尾を振って一度ではねかえす。そしてそのまま高度を下げ、先ほど振った尾をもう一度振ってその場にいた兵士たちを凪ぎ払った。
尾に当たらなかった者も、尾の動いた風圧で押し倒される。跳ね上げ橋や、掘周辺は完全に修羅場と化した。
そして何事もなかったかのように龍はハヨン達に近づいてくる。
セチャンが剣を構えたが、
「セチャン様、剣をお納めください」
とハヨンがやけに静かな声で話しかけたことに気圧されたか、素直に鞘へ戻した。