第2章 異変
「リョンヘ王子、危険ですのでお側を離れないようお願いします」
ハヨンはリョンヘの前に立ち、そう言いながら飛んできた矢を凪ぎ払った。
そして一呼吸おいて飛びかかってきた兵士を剣で応戦する。
「できるだけ相手を殺すな!動けなくなるようにだけしておけ!」
「はい!」
セチャンの指示は正しい。これでむやみに城の兵士を犠牲にしてしまうと、この事で確実に逆賊と認定され、全員が処刑される可能性もなくはないからだ。
それにしてもこちらが持っていない飛び道具を相手が持っているのが痛かった。
戦っていると時おり矢が飛んできて、注意が逸れてしまう。
何人か人をのしたとき、兵士と戦っているリョンヘの姿が目に飛び込んできた。
「リョンヘ王子!」
ハヨンが思わず叫ぶと、
「みなが戦っているのに、私だけ見物など不公平だろう?」
とにこやかに笑いながら相手の首に手刀を叩き込む。そう、リョンヘは公式の場では帯刀できないので、丸腰なのだ。
しかし辺りにはのされた兵が何人もいる。
ハヨンの肝が冷えるのは一瞬で、一気に呆れへと変わった。
しかしやはりハヨンたちの手勢は少ない。その上城からは次から次へと兵士が出てきた。そのうち少しずつハヨン達は追い詰められていく。
ハヨン、リョンヘ、セチャンと加担していた兵達はいつのまにか周りを取り囲まれ始めていた。
「お前たち…今からでも逃げろ」
「何をおっしゃいます!私はリョンヘ様の側を離れないと決めました。それだけは絶対にいたしません!」
そう答えたときにリョンヘの背に矢が飛んできているのが見えた。
「リョンヘ様!」
ハヨンの体は、考える前にリョンヘの前に飛び出した。
矢はハヨンの左腕に刺さった。
「ハヨン!!」
リョンヘがハヨンに駆け寄ろうとしたが、手振りで近づくなと伝える。
(今ここで抜いても止血する時間などない。むしろこのままの方が出血は少ないだろう。…毒矢では無いことを祈るしかない。)
ハヨンは景色が遠のいていくような感覚を必死に引き止めながら立ち上がった。