第10章 形単影隻
屋敷は中もひどく寂れていた。もし家具の上を埃が覆っていたら、空家だと信じていただろう。そして、老人以外、住んでいる者はいないようだった。
「すまんが、使っておる部屋がここと隣しかないんじゃ。こちらに来てはくれぬか。」
ハヨン達三人が入り口で立ち尽くしていると、奥の部屋から老人が顔をだす。言われるままに入っていくとそこは厨房だった。
老人が三つ腰掛けを出し、自分は初めからおいてあった物に座る。勧められるままに三人とも腰をかけた。
「さて、どこから話そうかの…」
老人が迷っているとき、ハヨンは壁一面に貼られている木札を眺めていた。一枚一枚、誰かの名前が書き込まれている。
老人はハヨンの視線に気がついたのか、ああ、と声を出した。
「ここは孤児院だったんじゃよ。身寄りのない子達が肩を寄せあって過ごすんじゃ。わしはここの院長だった。」
この木札は、孤児院を巣立った者達の名前が記されているそうだ。
ハヨンはその多大な量に驚いた。こんなにも家族を失った子供がいるのだ。ハヨン自身、父親を亡くしていた。それに、近年の疫病や凶作で多くの人が亡くなっていたのは知っていた。ただ、家族を失った子供がこんなにもいることを肌で感じるのは初めてだった。
(これは城の報告書では感じられないものだな…)
リョンヘも同じことを思ったのだろう。木札の一枚一枚を食い入るようにして見ていた。
「ここに来る者達は、様々な事情を抱えている。親を亡くした者、親に捨てられた者、この町に一人でやって来たもの…あの子もそんな子供の一人なんだと最初は思っていたんじゃ。」