第10章 形単影隻
ハヨンと同様にリョンヘもこの老人に自分達の事情を打ち明けてよいのか、そして自分達の目的は何なのかをしばらく考えていた。
四人の間では気まずい沈黙がおりる。
「確かに私達は彼を探している。それは彼の力を貸して欲しいからだ。拒否をされたら身を引こうとは思っている。あくまでも悪い目的で彼を使おうとは思っていない。」
リョンヘはそう静かに告げた。ハヨンはリョンヘの考えを尊重するつもりだったので、反論も口添えもしなかった。
ムニルもリョンヘと老人をじっと見つめるだけで、無言だった。ハヨンにはムニルのその目が、リョンヘを試しているように見えた。
「力を貸して欲しいねぇ…。お主の言葉はどちらともとりがたいものじゃな。まぁしかし、お前たちがあの子を追っていた時の姿や、先程からのやり取りの端々からも、お前たちがただ者ではないのはわかる。」
老人は目を閉じ、腕を組んで考え込む。ハヨンたちはじっとその決断が下されるのを待った。
「ならば教えよう。この老いぼれの恥ずかしい話と、あの子の昔のことをな。その事を知った上でないと、お前たちはずっとあの子を呼び止められないだろう。」
老人はそう言って、ハヨン達をある家の前に連れていった。そこはとてもみすぼらしかったが、何十年も前には立派な屋敷だったことがうかがえる。
その屋敷の庭に、老人はためらいもなく足を踏み入れた。
「あ、あの!どなたか住んでいらっしゃるのでは…」
手入れはあまりされていないが、所々に人の住んでいる形跡がみられる。そんなところに無断で入っていいのだろうか。
「ここはわしの家じゃ。ためらわんでよい。」
そう言って老人は先を歩いていく。