第10章 形単影隻
「…そこのお三方。もしやあの子を追っているのか…?」
ハヨンは白虎について思いを巡らせ、リョンヘとムニルは何やら二人で話し込んでいる時だった。三人の背後から老人のしわがれた声が聞こえる。
思わず振り返ったが、あの子というのが誰を指すのかわからなかった。
(私たちが白虎を追っていたのに気がついていたのなら、この人は白虎のことを言っているに違いない…)
二人もそう思ったらしく、この老人をどうやり過ごそうかと目配せをしたときに焦りの色が浮かんでいるのがうかがえた。
「あの子って誰の子とかしら?」
ムニルが首をかしげとぼけて見せる。
「この郡の中で、一番の厄介者のことさ。」
やはり白虎で合っていたようだが、この町の人にその事を知られるのはあまり良いことではない。白虎は皆の中で腫れ物のようなものだ。何か白虎に関わることが起こると、皆何をするかわからない。
「わしはあの子に迎えが来たのならば、あの子に起きたことを話してしまわなければならない。しかし、お前たちが何かあの子に危害を加えようとしているなら、わしはあの子を引き渡すわけにはいかんのだ」
その老人の物言いはなぜか親のようだった。この辺りでは疎まれており、住む場所もない孤独な白虎だと思っていたのは違っていたのだろうか。
(私たちは白虎に危害を加えるつもりはない。でも、白虎の力を利用しようとしている。決して悪事に用いるわけではないけど、やはり白虎とは関わりのないことに力をかしてもらおうとしてる。)
ハヨンは自分達がどちらに当てはまるのか、悩み始めるのだった。