第10章 形単影隻
彼が白虎で間違いない。ハヨンはそう確信した。
「待って…!あなたと話したいことがある…!」
ハヨンはそう叫んだ。少しだけ彼の走る速度が緩まる。しかし、それはほんの一瞬だった。みるみるうちに背中が遠くなる。
こんなに足の速い人を、ハヨンは初めて見た。ハヨンもそこそこ足の速さと持久力はそこそこに自身があったのに。
(これが四獣の力…)
ハヨンは遠くなる背中を見て、呆然とした。
白虎が向かう方向から、見覚えのある人物が現れる。
ムニルだった。
「ムニル…!彼を引き止めて…!」
ハヨンは叫んだ。ムニルも状況を察したらしい。ムニルが白虎に近づく。しかし、だめだった。白虎はいきなり飛びあがり、ある建物の屋根の一部を掴む。そしてそのまま屋根に登り、その上を走っていった。
「やられたわ…!今のが白虎?」
「そ、う…みたい。」
悔しそうにするムニルに、ハヨンは息も絶え絶えに答えた。
白虎の身体能力はやはり人並みではない。人の走る速さよりも圧倒的に速く、その跳躍力は優に人の倍は超えているだろう。そのくせ動きは軽やかで、音一つ立てなかった。
その後、大通でリョンヘと落ち合い、白虎を発見したことを伝える。
「白虎の外見はどうだった。」
「すごく綺麗でした。髪も肌も白くて。それと…尻尾が生えているようにも見えました…。」
ハヨンはまだ白虎の美しさに驚いていて、半分夢を見ているような気分だった。
(何であんなに綺麗な人がそんな仕打ちを受けなきゃいけないんだろう…。)
ハヨンは彼が裸足だったことや、服も擦りきれて外套も腰の辺りが見えるほど短かったことに胸を痛めた。最近の夜は少しずつ冷えてきていて、あの姿ではなかなかしのげないのではないかと思ったからだ。