第10章 形単影隻
「それにどうも、町の人達は彼を白虎だと思っていないようね。」
ムニルはそう付け加える。老婆から、四獣は男だと聞いていたので、彼、という表現だ。
「確かに…」
町の人達は”やつ”とか”あいつ”と呼んでいるのだ。
「あと、町の人の情報からだと爪が特徴的みたいだね…」
爪等は手袋や包帯などで何とか隠すこともできなくはない。それを隠さずにいるのは何か意図があるのだろうか。
ハヨンは町の人の会話を思い出しながら考え込む。人の手ばかりを見ていても、白虎はそう簡単に見つからないだろう。
「そういえば、調査に行った班の報告では、赤架には化け物が住み着いている、という報告だったな。やはり目立った外見のためか、恐れられている線で合っているだろう。」
と言うリョンヘにムニルとハヨンが頷いていると、突然、「うわぁぁぁぁぁ!!!」と人が切羽詰まったような叫び声が聞こえてきた。
思わず3人とも一瞬だけ体を強ばらせる。が、次の瞬間にはその叫び声がした方へ走り出した。
そこは裏路地で、男が一人地べたに座り込んでいた。
「大丈夫ですか!一体何が…」
ハヨンは男にそう尋ねようとすると、言葉を遮るようにして返事が返ってきた。
「あいつが!あいつがいたんだよ…!」
その頃、出遅れた他の町の人々がやって来る。彼らの手には鋤や鍬、包丁が握られていた。
「まさかやつかい…!?」
包丁を持った中年の女が、叫んだ男に尋ねる。
「ああ、そうさ。俺がこの裏路地に入ったとき、やつがいたんだよ。やつは俺を睨んだあと、立ち去った…。」
男が町の人とやり取りをしている間に、目立ちたくなかったハヨンたちはそっとその取り巻きから離れた。