第10章 形単影隻
「そうねぇ…お…じゃなかった。リョンヘはどう思っているのかしら?」
王子と呼んでは流石に周りから怪しまれるので、人通りの多いところでは皆名前で呼び合うことが決まっている。すんでのところでムニルは言い直した。
「うん…。私はむしろ、白虎は目立つ容姿をしていると思っている。四獣はそんなに目立つ容姿でなければ普段は人に混じって暮らせる。例えばムニルだってぱっと見てこれは青龍だ!なんて言う者はいないだろう。…合っているか?」
リョンヘはあくまでも己の予想だったため、ムニルにそう問い返した。
「ええ、そうね。私は自分から明かさない限り、見破られたことなんて一回もないわ。」
ムニルが頷きながらそう答えた。
「人と言うのは悲しいことだが、変わっているものを怖がる。己には図ることができぬものには攻撃的な態度をとる。時には自分より立場が低いと踏んだ相手にはその恐れを攻撃によって誤魔化したり、利用してやろうと企む者も現れる。この赤架では白虎は恐れられている…。その訳はこれに繋がるように私は思うのだ。」
リョンヘはそう少し沈んだ表情で語った。リョンヘも自分自身で当てはまることがあるからだろう。王族が持つはずの獣を操る能力を失い、一部の人々から密かに嘲笑われていた。リョンヘは以前、お忍びの際に賊を捕らえたりと民を傷つけるものたちを減らそうと努めていた。それは弱い立場にいる物を虐げたり、傷つけたりすることが許せないのだろう。
リョンヘの行動の数々は、もしかすると自分の置かれた環境と大きく関わっているのかもしれない。