第10章 形単影隻
人々がよく集まる市や広場の隅で立ち話を装い、人々の噂話を盗み聴く。時には旅人だと名乗ってこの町の様子をたずねる。そうやって不審に思われぬ程度に三人は情報を集めて行く。そうするとやはりまだ、白虎はこの町にいるようだった。
「みんないるいるとは言うけれど、そんな白虎らしき人なんてわからないよね…」
ハヨンはムニルをちらりと見る。彼も四獣の中の青龍だが、体の一部に鱗がある以外は普通に人間と変わらない容姿だ。その上、鱗も服に上手く隠れているので、誰も怪しんだりはしない。
白虎も、老婆から教えてもらった通り何か特徴があるかもしれないが、それは目に見えるものかはわからないのだ。
(むしろ私の方が目立つってどういうこと…)
ハヨンはなぜか生れつき目が赤い。しかし、彼女は何か特別な能力があるわけでもないし、獣になることなんてできない。
そして今、密かに調査しなければならないのに、ハヨンの容姿は酷くやっかいに思えた。そのため、ハヨンは笠を深く被っている。今までこの瞳を見て、どこかへ売り捌こうとしたり、色眼鏡をかけられたことはしょっちゅうで、この地でもそんな態度をとられたくなかったからである。そして何より、変わった容姿は人に覚えられやすい。
(私も特異な容姿なんだから、何か特別な力があれば良かったのに…。それならリョンヘ様や、王都の城でどうなっているかわからないリョンヤン様のお力になれることだって可能なはず…。私はまだまだ非力な所が多いから。)
ハヨンはそう思って少しムニルを羨ましくなった。
「そうよねぇ、白虎がどんな見た目をしているか聴きたいものだけど…。何だかここの人達、臆病そうな人が多くて訊きにくい…ってハヨン、どうかした?」
羨ましさをにじませてじっと見つめていたので、ムニルはそのいつもとは違う眼差しに気づいたらしい。
「う、うんん!何でもない。町の人達はみんな知ってるから、白虎の容姿についてあんまり話したりもしてないみたいだしね。」
ハヨンは慌ててそうまくし立てた。