第10章 Episode 9
翌日、私は事務所に顔を出していた。
「お兄ちゃん、前に言ってた相談事なんだけど...」
「うん、どうしたんだ?」
「百くんが、歌えないんだって。歌おうとすると声が出ないみたい」
「百くんが...?」
百くんのことをお兄ちゃんに相談すると、お兄ちゃんもとても驚いていた。
そりゃそうだ。Re:valeは上手くいっている。私もお兄ちゃんもそう思っていたのだから。
その時、事務所に三月とナギがやってきた。
どうやらお兄ちゃんに聞きたいことがあるようだ。
「俺に聞きたいこと?ああ、日帰り温泉のクーポンなら駅前のスーパーにね...」
「違う違う。温泉じゃなくて」
「バンリ、Re:valeのファンと言っていました。インディーズの頃から知っていますか?」
「ああ、知ってるよ」
知ってるよ、ね。お兄ちゃんの返答に私は小さくため息をついた。
「本当に!?じゃあ、千さんの前の相方知らないですか?実は、百さんが歌えなくなっちゃったんです」
「そうみたいだね、さっきさくらから聞いたよ」
「さくらも知ってたのか?」
「うん、この間TRIGGERに聞いた」
なんでTRIGGER?と三月もナギも不思議そうな顔をしていたが、今はそんなことを話している場合ではない。
「でも、一体どうして...?」
「詳しい原因はわからないけど、もしかしたら昔の相方のせいじゃないかって」
「え...?」
「ああ、その人が悪いんじゃなくて!千さんが前の相方を探してて、百さんはその人が見つかったら自分は辞めされられるんじゃないかって誤解してたんです」
「じゃあ...その人は見つからない方がいいんじゃないか?」
三月の説明に、お兄ちゃんが少し暗い表情をする。