第17章 Episode 16
部屋に入ると、想像以上の部屋にロケが更に楽しみになった。
そして私は荷物を置くと少し早めにロビーへ向かった。
「あ、山田さん。早いですね」
「Sakuraさんこそ。ここの旅館、前にも来たことあるんだけど、料理がすごく美味しいから期待しておいていいよ」
「そうなんですか?すごく楽しみです」
既にロビーに来ていた山田さんと世間話をしていると、向こうからユキとひかりさんが歩いてくる。
なんだろう。ユキが全く相手にしていないことはわかっていても、少しもやっとする。
「あ、監督さんが来た。もう少し向こうに行こう」
そう言って山田さんは私の肩を抱くと、前の方へ移動した。
そして今日の撮影の説明を受け、リハーサルも本番も滞りなく終わり、その日の撮影は無事に終わった。
お兄ちゃんと少しスケジュールの話をしてから、私は先に部屋に戻り扉を開けると、後ろから軽く押され部屋の中へ押しやられた。
「なっ...んんん!」
咄嗟に叫びそうになると口を抑えられ、私は一瞬恐怖を感じたが、ふわっと鼻に入ってきたのは、私がよく知っている匂いだった。
「驚かせてごめん」
「ユキ...」
「ちょっと匿って」
「どういうこと?」
「追われてたの。あの人に」
ああ、佐藤さんか。たしかに撮影の合間もずっと話しかけられていたもんな、と思い返す。
しかし私の部屋に隠れたところで、すぐ近くの部屋なのだからバレるのも時間の問題な気がする。
「さくらもさ、あの俳優と随分仲がいいんじゃない?」
「山田さん?」
「うん、その人」
「気にかけてくれてるだけだよ」
「そう?でも、簡単に触れさせないで」
そう言ってユキは私の肩に顎を乗せる。
そういえばロビーで山田さんに手を置かれたような気がする。
長いユキの髪の毛が首筋に当たり、少しくすぐったい。
「早く観光したい」
「うん。どこ行こうか」
「さくらはどこに行きたい?」
「星が見たい。東京じゃなかなか見れないでしょ?」
「うん。じゃあ見に行こう」
そう言ってユキがふっと笑う声が耳に入ってくる。
そろそろ大丈夫かな、と言いながらユキは外の様子を伺い、廊下に誰もいないことを確認してから部屋に戻って行った。
短い時間だったけど、ユキと2人で話せたことが嬉しかった。