第9章 Episode 8
「こんないい席のチケットもらえないよ」
「気にしないでください」
「天、素直に1番近くで見てほしいって言えよ」
「そ、そんなんじゃないから...!馬鹿じゃないの!?」
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて」
楽と天の言い争いを龍之介が宥める。
普段テレビで見るTRIGGERの知らない一面を見れたような気がして、なんだか微笑ましい。
「とにかく...このチケットはさくらさんに差し上げます。ちゃんと見ていて」
「うん、ありがとう。しっかり見るよ」
「それにしても...Re:valeは大丈夫でしょうか」
「一連の嫌がらせのこと?」
「それもだけど、百さんのこと。歌えないんだ。」
私の質問に龍之介が答える。
歌えないとは、どういうことなのか。
「少し前の収録から歌えずにテープを流していて...。さくらさんも歌えないことってありますか?」
「私は経験ないかな。でも、自分が歌えなくなったらって考えると...すごく、怖い」
歌は、私とファンを繋いでくれる唯一のツール。
もし私が歌えなくなったら、Sakuraという存在は消えてしまう。
百くんは今どんな気持ちでいるんだろう...。
「百さんは俺は本物のRe:valeではないと言っていました。千さんの元相方が行方不明になって、その方と組んでいた5年間。その同じ期間だけ代役として使ってほしいと頼んだそうです」
「そう、だったんだ」
百くんはユキにそんな風に頼んでいたのか。
Re:valeが今の形になった経緯を、私は初めて知った。
その後こけら落としの話をしていたが、あまり頭に入って来ない程、私はユキと百くんのことで頭がいっぱいだった。