第11章 終わりよければすべて良し
「如月さん」
「はい?」
水をかきだす手をとめて、木手くんはその手で私の手をしっかりと握った。
いきなりの出来事に抗うこともできず、されるがままだった。
「貴方が…例え俺達を陥れようとしていたとしても……俺は貴方のことが好きです」
「…っ、木手くん…?」
「どうしようもなく、好きです」
迷いのないまっすぐした彼の眼差しが、私を捉えて決して離さない。
濡れて冷え切っていたはずの体は一気に体温を取り戻し、逆に熱を帯びていく。
「美鈴さんも、ほら」
彩夏ちゃんに促され、木手くんの手に力がこめられ、逃げ場を失くした私は目の前の彼に答えるしかなかった。
けれど本当に私でいいのか、いまだに迷いが少なからずあった。
自身のなさは言葉にもあらわれ、口はもごもごと動く。
「で、でも…私6つも上だし…君はまだ中学生で…」
「美鈴さん、そんなこと言ってる間にボート沈んじゃいますよ!」
ここにきても答えに迷う私の背中をパシッと大きな音をさせて彩夏ちゃんは叩いた。
私を見つめる木手くんの目は相変わらず、じっとまっすぐにこちらを見ていた。
彼の求めている答えはただ一つ。
年も、立場も、二人を隔てるものを全部取っ払ったその先にあるもの。
ただ、それだけ。
「……私も、どうしようもなく、好き、です」
そこでぎゅっと目を瞑ってしまったから、私の言葉に木手くんが一体どんな顔をしたのか、彩夏ちゃんがどんな顔で私達2人を見ているのかは分からなかった。
ただ目を瞑って一つ感覚を遮断してしまったことで、海水がすでに腰のあたりまで来ていることに気付く。
非常な現実は甘い余韻に浸らせてくれそうになかった。
想いが通じたところで、待っているのは限りなく『死』に近い現実だ。
「沖縄に…行きたかった…」
ずいぶんと場違いな言葉だったろう。
私の口から出た言葉に、2人とも苦笑いする。
握りしめた手に力をこめて、木手くんが私に微笑んだ。
「案内しますよ」
いつぞやそんなやり取りをしたっけ。
木手くんの言葉をきっかけにして、思い出が走馬灯のようにめぐった。
ああ、死ぬ前って本当に走馬灯がかけめぐるんだ、なんてどこか呑気なことを考えてしまう。
「必ず、ね」