第11章 終わりよければすべて良し
言うなり木手くんは私を背負うように自分の首元に私の腕を巻きつけさせた。
触れる彼の背の筋肉の感触が、この島に来た時のことを思い出させた。
もう戻らない時を想いながら、木手くんと波に体を預けた。
「木手さん!美鈴さん!」
ボートの上で1人、彩夏ちゃんは涙をうかべて震えていた。
私達をボートに引き上げると、ほっとしたように息を吐き出した。同時に大粒の涙が彼女の瞳から零れ落ちる。
彼女が濡れるのもお構いなしにぎゅっと抱きしめる。
「良かった…無事で…」
「こっちのセリフですよ!美鈴さん急に沈んじゃうんだもの!2人とも無事でよかった…」
木手くんと私を交互に見やって、また彩夏ちゃんはボロボロと涙を流した。
彼女と私を大きく包み込むように、木手くんの長く逞しい腕が私達2人にまわされる。
3人で身を寄せ合ってしばらくして、誰ともなく身を離す。
「…どう、なるんでしょう…私達…」
彩夏ちゃんの言葉に私は貝のように口を閉じるしかなかった。
大丈夫、なんて無責任なことは言えず、何かいい言葉がないか必死で頭の中を検索するがなかなか見つからない。
「…甲斐クン達に跡部クンを探すように言ってあります。なんとかなるでしょう」
「跡部くん」という単語が木手くんからそんな風に飛び出すとは思っていなかった私はひどく驚いた。
あんなに敵対心を持っていた跡部くんを信用しているような、そんな風だったから。
そんな私の思いを察したかのように木手くんが言葉を続けた。
「勘違いしないでくださいよ。何もあいつを信用しているわけじゃない。が、貴方達が巻き込まれたとあっては彼も動かざるを得ないはずだ」
「木手くん…」
すっかり遠のいてしまった島だけが私達を見守っている。
周りには本当に何にもなくて、ただただ青く深い海が広がっているだけだった。
跡部くんに無事連絡がついたとして、助けが来るまで私達は無事でいられるだろうか。
船が遭難にあった時のような嵐に見舞われないとも限らない。
自分達の存在以外何もない、という事がこんなにも人を心細くさせるのかと思った。
何か話していないと不安が大きくなるばかりで、私は思い切って木手くんに話しかけた。