第11章 終わりよければすべて良し
「馬鹿なことしないで!」
彼らの傍らには彩夏ちゃんの乗った救命ボートがあった。
ボートのふちに手をかけた甲斐くんと平古場くんの姿を見れば、彼らが今にも海へボートを押し出そうとしているところだったことが分かる。
「…邪魔しないでもらえますか。俺達はここを出ていく。もう貴方達の茶番に付き合っていられないのでね」
木手くんは冷淡な瞳でそう言うと、ボートに手をかけ一気に海に押し出そうとする。
奥底から力が湧き出るのが自分でも分かり、その勢いに身を任せることにした。
木手くんの腕をがっしりと掴み、その手に持てる精一杯の力をこめる。
そこに自分の気持ちも一緒にこめて。
「こんなボートでどこに行くつもり?!死にに行くようなものだよ?!」
「俺達を嵌めようとする貴方の傍にいるよりマシです!!」
木手くんが私の拘束から逃れるために大きく腕を振り払う。
彼の腕力は私の体を軽く吹っ飛ばすのに十分すぎるもので、私は勢いよく砂浜へと叩きつけられた。
砂が巻き上げられ、体のあちこちにへばりつく。
ちりちりとした痛みが肘や膝にあらわれ、痛みに顔をしかめる。
「だ、大丈夫か?!」
甲斐くんと平古場くんが慌てたように私に駆け寄り抱き起した。
キッと甲斐くんは木手くんに対して咎めるような視線を投げた。
「いくらなんでもやりすぎやし、永四郎!」
「甲斐クン、平古場クン、そんな人は放っておきなさい!」
「永四郎…」
「キミたちは知らないんです、彼女がどんなに狡猾で、冷酷な人間なのかを…!」
そう叫ぶ木手くんの表情はこれまでにないほど悲壮感が漂っていた。
私を狡猾で冷酷だと言う彼は、そう口にしてしまうのが苦しそうだった。
言葉とは裏腹に、私を見つめる彼の目は悲しみに満ちていた。
まるで、私にそうあって欲しくない、と哀願しているようだった。
「っ、き、木手さんっ!!」
慌てたような声が聞こえて皆の視線が一気に声のした方へ向けられた。
先ほどまでそこにいたはずの彩夏ちゃんの姿がどんどん遠のいていっている。
私と木手くんが揉み合ったはずみで、ボートは海へ押し出されてしまったようだった。