第11章 終わりよければすべて良し
木手くんが合宿のことを何がしか疑っているのは分かっていたが、まさかそんな風に考えていただなんて。
見当違いも甚だしいのだが、彼の中で結論づけられたそれを覆すのはなかなかに難しそうだった。
反論する私に冷ややかな視線を向け、彼は言葉を続けた。
「現にもう何人も怪我している。そうやって自分達の有利になるように仕組んでいるんだ」
「馬鹿なこと言わないでください!俺達がそんなことするわけないじゃないですか!」
揺るがない瞳を大きく見開いて鳳くんが宍戸くんを押しのけ、柱にもたれている木手くんにぐっと近づく。
預けていた背を柱から離して、木手くんは鳳くんを少し見上げる形で睨み付ける。
「そうよ、木手くん勘違いしてる」
周囲に人だかりが出来たままだった私は、そのままその場で木手くんに声をかける。
睨み合う二人がちらりとこちらに視線を移す。
木手くんの目は冷ややかなままで、私の胸を突き刺さした。
今までに見たことのないほど鋭く敵意を含んだその目がとても怖く、悲しかった。
「勘違い?ふん、俺を騙しておいて白々しいですね。」
苦々しい表情を浮かべた木手くんが大きく息を吐き出す。
そこには私に対する侮蔑が含まれているようだった。
「騙す…?」
確かに私はこの合宿の真意を知っている。
それでいてその事実を隠すことにも協力していた。
その為に木手くんはじめ彼らの様子を見ていたことも事実だ。
けれどそれは決して怪我をさせようとかアクシデントにあわせようとかそういった目的ではなくて――。
「大方俺に言ったあの話も嘘なのでしょ。ああいって俺の同情をひいて俺に近づいた。考えてみれば初めからおかしかったんだ。あなたはあの2人と違って、氷帝の監督の姪という立場。
キミも跡部くん達とグルになって俺達を陥れようとしていたのですね」
雄弁に語る木手くんはうっすらと笑みすら浮かべている。
今の彼には、私のどんな言葉も『嘘』にしか聞こえない。
そんな思いが頭をよぎり、胸が張り裂けそうになる。
キミの同情を引きたくてあんな話をしたんじゃない。
キミを陥れようなんて微塵も思っていない。
キミが無事にこの合宿を乗り切れるように。
キミが怪我をしないように、危ない目にあわないように、嫌な思いをしないで済むように。