第2章 嵐をよぶ女
「半端な時間だなぁ…船内ウロウロしよっかな」
この広い広い部屋にあと30分近く1人でいるのも気が引けた。
外の空気でも吸いに、デッキにでも行こう。
財布とスマホと小さな化粧ポーチだけ詰めたカバンを持って、部屋を出た。
デッキへ向かう途中、紫のユニフォーム姿が目に飛び込んできた。
さっき私の後ろにいた、比嘉中の子達だ。
すらりとした綺麗な立ち姿に、思わず見とれてしまう。
こんな子が大人になったらさぞやいい男になるに違いない。
いまでさえ完成されたように見えるその姿に、私は遠慮もなくまじまじと視線を送っていた。
「あね、さっきのおもしろい人やっしー」
裕次郎くんの言葉に、私が視線を注いでいた人物が振り返り、バチッと目があった。
「永四郎ぬくとぅ(永四郎のこと)じっと見つめてちゃーさびたがんやっさー(どうしたんだ?)」
「んっ?ごめん、今なんて言ったの??」
裕次郎くんは明らかに私に向けて言葉を発していた。
けれども、私には彼がなんと言っているのか分からなかった。
独特のイントネーションからして、彼ら比嘉中の子達が沖縄の子達だということは分かる。
が、その沖縄独特の言葉までは、理解できなかった。
「甲斐くん、彼女はないちゃー(本土の人)です。琉球方言は通じませんよ」
「あいっ、わっさん!(えっ、ごめん)気を付ける!」
「…それも方言ですけどね」
甲斐裕次郎くんと木手くんがそうやりとりした後、木手くんがこちらを向いて先ほどの甲斐くんの言葉をゆっくりと説明してくれた。
「それで、俺のことを見ていたようですが、何か用ですか?」
「えっ、ああ、いや用があるわけじゃないの。ただ、綺麗だなって思って」
「はぁ…?綺麗?俺がですか?」
言って、言葉が足りなかったことに気が付く。
ただ「綺麗」と言ってしまっては、木手くんが怪訝な顔をするのも無理はない。
男子中学生を褒めるにしては「綺麗」は微妙な言葉だろう。
「あ、『綺麗』ってね、木手くんの立ち姿のこと。もちろんそのバランスのとれたスタイルも綺麗だと思うけどね。ピシッと背筋が伸びててカッコよかったから見とれていたの。腕とか足の筋肉も締まってて綺麗だなぁって」
「…お姉さん、やらしい目で永四郎のこと見過ぎやっしー」