第2章 嵐をよぶ女
甲斐くんに指摘されて、あわてて否定する。
「ええっ、違うよ!私はただ純粋に綺麗な体だなって…」
「あははっ、その発言もやらしーって」
長髪の少年が甲斐くんと一緒になって笑っている。
大笑いする二人の横で、木手くんだけは表情一つ変えずに私を静かに見ていた。
はぁ、と息を吐き出す音が聞こえて、続けて木手くんが言った。
「褒め言葉、と受け取っても構いませんかね?」
「褒め言葉も褒め言葉です!」
「そうですか。では一応お礼を言っておきます。ありがとうございます」
「一応」ってわざわざ付け足したということは、木手くんは私の発言をあまり嬉しく思っていないようだ。
顔を合わせて間もない人間に体がどうこう言われるのは、男女逆でも、そこに歳の差があったとしても、セクハラになるのではないか―。
今更ながらそんな考えが浮かんできて、私はまた自分の不用意な発言に失敗したと思った。
「…ごめん、気を悪くしたのなら謝ります。さっきの発言に深い意味はなかったのよ、本当に。」
「別に気を悪くはしていませんよ。少し驚いただけです」
「そう?ならいいんだけど」
「まぁ…発言する前にもう少し言葉を選んだ方がいいかもしれませんね」
「うっ、気を付ける…ご忠告どうも」
気にしていたことを指摘されて、胸が痛い。
何が悲しくて5歳以上年下の男の子に忠告されなくてはいけないのだろう。
私は痛む胸を押さえながらその場を後にした。
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デッキに出ると、あたりはもう暗くなりかけていた。
海に沈んでゆく夕日が見えて、思わず感嘆の声をあげる。
「綺麗だなぁ…」
吹き付ける強い風が、海の匂いを運んでくる。
バタバタとなびく髪をおさえつつ、手すりから下を覗き込む。
そこには暗い色が広がっていて、底のない深い深い海があった。
吸い込まれそうになる感覚に、いいようのない不安感が襲う。
「おねーさん、そんなに覗き込んでたら危ないよ?」
降り注いできた声に、顔をあげる。
「山吹中」と書かれたユニフォームを来た茶髪の少年が私にニッコリと微笑んだ。
「あれっ、ラッキー!おねーさん超美人じゃん!これって運命の出会いかな?」
軽薄なセリフに目をぱちくりとしてしまう。
反応できずにいる私をよそに、少年は続けた。