第10章 誤解
『陰謀とか年の差とか関係ないさぁー!好きになったならちゃんと捉まえておかないとなぁ』
言って笑う甲斐の顔が平古場の頭に浮かぶ。
その言葉はもしかしたら、裕次郎自身に向けて放たれたものだったのかもしれない――、と木手に突っかかる甲斐の姿を見て平古場は思った。
もしかしたら、裕次郎も如月さんのことを―。
喧嘩は一応の終息を見たが、ロッジ内の空気は相変わらず重たいままだった。
ふいに、カタン、とロッジの外で音がして、3人ともそちらに意識を向けた。
木手が足音を立てずに近づいた窓から覗くと、ドアの前で中の様子を窺っている辻本の姿があった。
はぁ、とため息をついて木手は期待していない訪問者にドアをほんの少しだけ開けた。
「何の用ですか」
「っ、ごめんなさい!聞き耳たてるつもりはなかったんですけど…みなさんのことが気になって」
「…馬鹿ですねあなたも。厄介ごとにわざわざ首をつっこむなんて」
「…永四郎、たーやが?(誰だよ)」
「いつものたーがらさん(誰かさん)、ですよ」
木手の言葉に甲斐と平古場は一瞬如月の姿を想像したが、実際にドアの向こうから姿を現したのは辻本だった。
どことなく納得はするものの、如月ではなかったことに甲斐は少し落胆していた。
「で、俺達の話、どこから聞いていたのですか?」
木手の低い声に辻本の肩がびくりとする。
辻本は彼女の小さな手をしっかりと握りしめて木手を見つめ返した。
「明日この島を脱出するって話から…」
「つまり、全部、聞いていたのですね」
「…はい」
答える少女の唇はぎゅっと真一文字に結ばれ、握りしめた拳は彼女の太ももの上で小さく震えている。
それでもまっすぐに伸びた背筋は彼女なりの意地のように見えた。
「わ、私も一緒に行きます!」
開かれた辻本の口から発せられた言葉は3人を驚かせるのに十分だった。
ただ木手はある程度予測していたのか、甲斐と平古場より先に次の動きに入るのが早かった。
「駄目です。危険な目にあわせるわけにはいきません」
「じゃあ私も木手さん達を行かせるわけにはいきません!」
「…あなたはここにいても俺達と違って危害が及ぶことはないでしょう。大会に関係のない人間ですからね。…助けが来るまで大人しく待っていればいい。」