第10章 誤解
榊監督の手引きで、この計画の手助けをするように頼まれて船に乗り込んだのだろう。
それをカモフラージュするため、傷心旅行だと嘘をついたのだ。
そう考えれば、成人女性が1人だけというこの状況にも納得がいく。
すっかり彼女にほだされ騙されてしまった自分が恥ずかしい、と木手は心の中で思う。
「少し、様子を見に行ってきます」
「1人で大丈夫か?」
心配そうな顔をする平古場と甲斐に木手はいつもの不敵な笑みを見せて彼らを安心させようとした。
「皆で行くと怪しまれてしまいます。こういう時は単独行動の方がいいでしょう」
それは建前にすぎず、本音は木手1人でゆっくり己の気持ちを整理したかった。
心のどこかで、いまだ彼女のことを信じたいと思う自分と、決別したかった。
気をつけろよ、という2人の声を背に受けて木手は静かに跡部景吾と如月のいるだろうロッジへと足を運んだ。
ロッジの前には樺地が門番のように立ち、中の様子を窺おうとする訪問者の侵入を頑として阻んでいた。
窓のカーテンはきっちり閉じられていて中を覗き見ることは出来そうにない。
同じ氷帝の部員ですらロッジ内へ入ることを許されていないようで、そんなところに自分が出向いたとしても結果は火を見るより明らかだ。
さて、どうするか。
木手が思案を始めてしばらくした時、ロッジのドアが静かに開いて中から如月が出て来た。
彼女は何言か入口の樺地に話した後、ロッジから離れ裏の雑木林の暗がりへと周囲を気にしながら姿を消して行った。
怪しすぎるその行動に、木手は何気ない風を装って彼女の後を追った。
彼女が消えた暗がりに目をこらすと、彼女の他にも人影があるのがぼんやりと見えた。
ボソボソとした声が聞こえるのみで肝心の内容は分からない。
しかしこれ以上そちらに近づくわけにもいかず、ジリジリとした思いを胸に抱きながら木手は仕方なくその場で様子を窺うことにした。
黒ずくめの男達と会話を済ませた如月が、踵を返してこちらにやってくる。
さっと身を隠し、彼女がこの場から離れていくのを息をひそめてじっと待った。
遠のいていく足音に胸をなでおろし、瞳を閉じて今目にした光景を瞼の裏に浮かべる。