第10章 誤解
この『遭難』は仕組まれたものなのだ、氷帝の監督と跡部景吾の手によって。
これまで確認した跡部の不審な行動、辻本から確認した彼女の友人の父親のおかしなアドバイス、そして自然と俺の心に入り込んできたあの女性。
点と点は木手の頭の中で自然に繋がり、それは一筋の線となり、その先に一つの結論が待っていた。
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「永四郎、跡部のやつ…」
「ええ、怪しいですね。いよいよ本格的に行動にうつすつもりでしょう」
比嘉の3人は他校の生徒達のロッジから離れた自分達のロッジで声を潜めて先ほどの緊急ミーティングを振り返っていた。
合宿の初めの方からうすうす怪しいと感じていた木手の勘はどうやら当たったようだ、と3人して口にする。
電波の通じるはずのないこの島で、跡部が誰かと連絡を取っている姿や、巧妙にカモフラージュされた隠された謎の小屋、どれだけ探し回っても見つからない顧問達…。
跡部の周辺を嗅ぎまわるうちに彼に対する疑惑はますます深まっていった。
今日の毒蛇に噛まれたというのも、本当かどうか疑わしいものだ。
木手は苦々しく唇をかみしめる。
跡部景吾は、俺達を――、合宿に参加した他校の人間を、大会で実力が発揮できない様にアクシデントを装い怪我をさせようとしている。
いや怪我だけで済めばいいが――もしかしたら。
勝つために手段を選ばないことは理解できるし、共感もするがいくらなんでもやりすぎだ、と木手は思う。
しかし純然たる事実が木手の眼前に現れ、目をそらせぬほど大きくなっていった。
すでに何名か怪我人も出ているし、崖から落ちかけたり命の危機に直面した者もいるのだ。
悲しいことにその怜悧狡猾な企みに、木手の胸を焦していた如月も加担していると気づき、それがさらに木手の気持ちをかき乱していた。
如月を信用するつもりはなかったはずなのに、木手はいつのまにかそんなところを飛び越えてしまっていた。
自分で線を引いたはずなのにそれをあっさりと超えてしまった自分にも、そうさせた如月にも驚いていた。
なのに、彼女は。
浜辺で涙を浮かべて語ったあの話も、今思えば、自分を騙す為の演技だったのだろう。
彼女は辻本よりも狡猾な女だったのだ。
氷帝の監督の姪でもある如月は、たまたま船に乗り合わせることになった2人の少女とは立場が違う。