第10章 誤解
緊急ミーティングで、跡部が毒蛇に噛まれて体調不良だという話がみなに伝えられた。
突然の事態に集会場は騒然となった。
「静かに。命に別状はないようだから落ち着いて欲しい。しばらく跡部は休養するそうだ。みんなもくれぐれも気をつけるように」
幸村がざわつくみなに言う。静かだけれど迫力のある幸村の声音がこの場のみんなをまとめた、かに見えた。
「…本当でしょうかねぇ…」
ボソリとつぶやいた木手の言葉を、幸村は聞き逃さなかった。
「木手、何だい?言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだい」
「いえ…なんでもありませんよ」
鋭い幸村の視線を受け止めて木手は小さく首を振って答える。
何か企むような光を宿した木手の目から幸村は目をそらさないまましばし沈黙する。
沈黙が重たくこの場所にのしかかり、みな一様に固唾をのんで二人のやり取りの行方を見守っていた。
いつもならこういう空気になった時、必ず口を挟む人物がいるのだが、今はこの場に姿を見せていなかった。
どこかで彼女の声が聞こえてくるのを待っていた鳳は、ふと彼女が跡部に付き添ってロッジに向かっていた姿を思い返した。
毒蛇に噛まれていつもより心なしか弱弱しく見えた部長の姿が同時に浮かび、不安からどくどくと心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
跡部さん大丈夫かな、心の中でそんなことを考え、傍らの宍戸に目を移す。
視線を感じて鳳を見てきた宍戸の顔にも、不安の色がひろがっていた。
「…木手、不用意な発言はしないでくれるかい。今の状況、分かってるよね?」
「……ふん」
ストッパーとなる人物がいない為、幸村は木手に釘を刺しそこで会話を終了させた。
それ以上続けてしまっては泥沼になると判断したのだろう。それは木手も同じだった。
いつもなら当たり前のように間に割って入り、凄味のない睨みをきかせてくる人物の姿が木手の頭に浮かぶ。
先ほどの跡部と彼女の重なり合う影までが、沈みこめた胸の奥底から浮き上がってきて、吐き気に似たものが木手の胸にこみ上げてくる。
彼女がどういった目的で自分に近づいて来たのか、この『遭難』に隠された真の目的と繋げるとすんなり納得できるような気がしていた。