第9章 嘘
思い上がりもいいところだ――――。
気持ちを吐き捨てるように、短く息を吐いて、その場を立ち去った。
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*ヒロインside*
その日の夜、跡部くんのもとへ1日の報告を兼ねて話をしに行った。
私が来る前にボールの打ち合いをしていたようだったが、彼の姿を見つけたのは何故か雑木林の中だった。
「跡部くん何してるの?」
「あぁ美鈴か。ボールを探していてな。あのバカこんなところに打ち込みやがって」
言ってガサガサとラケットで草をかき分けて跡部くんはボールを探している。
日も落ち切ってあたりは闇につつまれている。
そんな中でこの藪の中、行方知れずになったボールを探すのはなかなか骨が折れそうだった。
「手伝うよ」
「悪ぃな」
しゃがみこんで跡部くんがこのあたりと言った箇所の草をかき分けて探す。
「うーん、ないねぇ…」
あんな黄色いボールなら暗がりでも目に飛び込んできそうだったが、いかんせんここの草は伸びきっていてテニスボールが姿を隠すには十分な場所だった。
跡部くんの示した場所から少しずつ離れながらもボールを探し続ける。
目の端にチラリと黄色い物が入り込む。
「あっ、あった!」
私の声に跡部くんも、私の視線の先のボールを追う。
生い茂る草を大きくかき分けてボールに手を伸ばそうとした時だった。
「おい、待て!」
跡部くんの声が響いた時には、それは牙を向けて私に向かって飛びかかってきていた。
「っ!」
驚きと恐怖で思わず目を瞑り、顔を両腕で覆い、飛び掛かってきた蛇の攻撃を防ごうとした。
けれど蛇が飛び掛かってくることはなく、代わりに低くうめく跡部くんの声に目をゆっくりと開ける。
目に飛び込んできたのは、跡部くんの右手に蛇が噛みついているところだった。
「跡部くん!!」
痛みに顔を歪めた跡部くんに駆け寄る。
大きく腕を振り払うと、蛇は音をたてて地面に落ち、ゆるゆると体をくねらせて藪の中へ姿を消していった。
「貸して!」
跡部くんの腕を自分に引き寄せ、噛まれた箇所の血を吸いだす。
吸っては吐き出すのを幾度か繰り返し、手首を持っていたタオルで縛って止血する。
「大丈夫?!」
「そんなに慌てなくても大丈夫だ。さっきの蛇に毒はねぇ。見てみろ、もう血も止まりかけてる」