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ニライカナイで会いましょう【テニプリ/木手】

第9章 嘘



*木手side*

盗み聞きするつもりはなかった。
ただ耳になじみ過ぎてしまった二人の声が聞こえて、なんとなく意識がそちらに向いたのだ。

聞こえてきたのは、俺にまつわる会話で。
思わず耳に神経が集中する。


「じゃあ……木手さんのこと、好きですか?」


辻本君の言葉に、空気が一瞬とまったような気がした。
問われた如月さんは一体なんと答えるのだろう。
聞きたいような聞きたくないような、複雑な気持ちで、如月さんの言葉を待つ。
どこかで期待してしまっている自分がいて、落ち着け、と心の中でつぶやく。


「えっ…そ、そんなわけないでしょ~!私、大学生で木手くん中学生なんだよ?!いやぁありえないでしょ??」


力強くそう否定する如月さんの声が耳に何度もこだまする。
辻本君に遠慮してそう言っているのかと初めは思った。

けれど、彼女の言葉の中にあった「大学生と中学生」という言葉に、そうではないような気がしてくる。
彼女はしきりに「大人」だとか「中学生」だとか、年のことを気にしていた。

如月さんにとっては、中学生の俺は、単なる中学生でしかない―――恋だの愛だの感じる対象ではないのか。
では今まで見せた彼女の表情は?態度は?全部俺の勘違いだったというのか。

如月さんとの距離が限りなく近づいているような気になっていたのは、俺だけだったのだろうか。
ここからでは2人の声を聞くことしかできず、どんな表情で如月さんがああ言ったのか窺い知ることはできなかった。

「…本当に?」

念を押すように辻本君が聞く。
その後に続く如月さんの言葉は聞かない方がいい、と頭のどこかで警告音が響く。
聞いてしまえば、俺の気持ちは行き場を失くしてしまう――それがとても怖い。

「うん、違うよ。好きじゃない」

無情にも如月さんの言葉が凛と響き、耳に残って仕方がなかった。

『好きじゃない』

もう十分だ。これ以上ここでじっとしている必要はない。
彼女の気持ちが俺に向いていると思っていたのは、単に俺の独りよがりだったのだ。

あの人の心の大きな穴を埋められるのは自分だと、そう思っていたのに。
あの微笑みも、熱を帯びて赤くそまる頬も、頼りなくゆれる長い髪の毛も。
自分の物にしてしまえると―――。
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