第9章 嘘
――想いが通じるかは、分からない。
「そっか…じゃぁ…」
何事か納得して、辻本君はそれきり恋愛系の話題に触れる事はなかった。
絶対に『好きな人はいますか』と続けて聞かれるものだろうと思って、会話をシュミレートしていた俺は力が抜けた。
中途半端なところで会話を打ち切られたような気がして、なんとなくモヤモヤしたものが胸に残った。
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*ヒロインside*
「美鈴さーん!」
パタパタと元気な足音をたてて彩夏ちゃんが私に駆け寄ってくる。
彼女のあふれんばかりの笑顔に、どうやら木手くんと上手くいっているらしいことを感じ取った。
何も知らずニコニコと私に笑顔を向ける彼女に、胸の痛みはチクチクと増していく。
うまく笑わなければ、彼女に知られるわけにはいかない、私のこの気持ちは。
「彩夏ちゃん、どうしたの?そんなに息をきらせて」
肩で息をする彼女に向けた私の顔はうまく微笑んでいるだろうか。
不安になりながらも、必死で顔の筋肉に意識を集中させる。
「これ、見てください!」
彩夏ちゃんがそう言って私に掲げて見せたのは、ゆらゆらと揺れる緑色のシーグラス。
綺麗に巻きつけられたワイヤーの先に短く紐が結わえられて、ストラップのようになっていた。
こんなことをするのは、きっと、彼しかいない。
「…わぁ、可愛いね!昨日のやつ?どうしたの、それ」
聞かなくても分かっているのに、口から出たのはそんな言葉で。
どこかで認めたくないと思ってしまっているのかもしれない、木手くんが、彼女にも手作りのプレゼントをしたという事実を。
「木手さんにもらったんです」
彩夏ちゃんのその言葉に、やっぱり、と心の中でため息をつく。
やっぱり自分に対してだけじゃないんだ、彼が優しさを向けるのは。
「木手くんに……よかったね、彩夏ちゃん!」
気持ちを振り切るように、つとめて明るくそう言う私に、彩夏ちゃんの顔が曇る。
何か失敗してしまったかと考えを巡らせる。
私が理由を突き止める前に、彩夏ちゃんが自らその理由を指摘した。
「…美鈴さん…そのペンダントは…?」
彩夏ちゃんの目は私の胸元で揺れるオレンジ色に釘付けのまま。
あっ、と気が付いたときにはもう遅かった。
「えっ、こ、これは…」