第9章 嘘
以前誰かがここに植えたのだろう、その後そのまま放置されたであろう野生化したゴーヤーがあちこちに豊かな実をつけていた。
「どうですか?驚きました?」
「ええ…ここにゴーヤーがあるとは思っていませんでした」
「でしょでしょ?これで必殺技が出せますね!」
「…必殺技?なんのことですか?」
「甲斐さん達に聞いたんです、木手さんはゴーヤーを使った必殺技を持ってるって」
それは一体どんな必殺技なのか、突っ込まずにはいられなかったがあえて口にしなった。
甲斐君も平古場君も何を考えているのですかね――はぁ、と深いため息をつく。
彼らにとって辻本君はからかうのにうってつけの対象なんでしょうね。
そんなに彼らが必殺技を望むのなら、後でお望み通り食らわせてあげましょ。
「ふふふ…辻本クン、感謝しますよ」
「喜んでもらえてよかった!…でもその笑顔なんか怖いです…」
ゴーヤーをいくつか収穫して、帰路に就く。
その途中で辻本君が言いにくそうに話を切り出した。
「あの…木手さんって付き合っている人っていますか?」
「はぁ?キミは突然何を言い出すんですか」
彼女の言葉に若干動揺してしまう。
大方こういう質問の後に続く言葉は決まっている。
今まで何度か経験したことのある会話が始まった、と俺は思った。
やはり辻本君は俺に好意を抱いているようだ。
推測は確信に変わった。
「ちょっと気になっただけです」
「そういうキミは?」
さりげなく話題をすりかえる。
それに気づいているのかどうか知らないが、彼女の目が大きく見開かれた。
「わ、私はいないです…」
「そうですか」
「き、木手さんはどうなんですか?」
「…キミに答える義理はないと思いますが」
冷たく言い放って、彼女の反応を窺う。
一瞬怯んだように見えたが、やはり彼女はただでは引く気が無いらしい。
「私が答えたんだから教えてくださいよ」
「……いませんよ」
ため息交じりに短く答えて、それ以上彼女が踏み込んでこないよう視線を彼女から逸らす。
付き合っている女性はいない。今は、まだ。
そのうちなんとかしてみせる、と考えてはいるが。