第9章 嘘
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*木手side*
「木手さん、このシーグラスなんですけど。穴開けられないですかねぇ?」
ポケットから辻本君が、昨日如月さんから譲ってもらっていた緑色のシーグラスを取り出す。
先ほどの如月さんとのやり取りが思い返されて、胸にじわりとあたたかいものが流れてくる。
ただワイヤーを巻きつけて紐を通しただけの物に心から喜んでくれていた彼女の姿が目に焼き付いて離れない。
「……穴、ですか?」
少し遅れて辻本君に言葉を返す。
目の前の彼女をよそに俺が如月さんのことを考えているとは、辻本君はよもや思うまい。
「はい。ヒモを通してストラップにしようかなと思って」
「ああ、なるほどね。それならワイヤーを巻きつければいいですよ」
「ワイヤー?ええっと、どうやったらいいんですか?」
俺がやった方が早く綺麗に仕上がるのは分かっていた。
そして辻本君もそれを望んでいることを、彼女の声音とその表情から読み解くことが出来た。
けれど、それは如月さんの為だけにとっておきたいと思ってしまう自分がいた。
「シーグラスに何度かワイヤーを巻きつけて、最後に紐を通す穴をワイヤーを捩じって作ればいいだけですよ」
「…想像するのが難しいので、木手さんやってくれませんか?」
辻本君がそう言うのは至極当たり前のことだった。
口で説明したって実物を見たことがなければどういったものかよく分からないだろう。
「…分かりました。しばらく貸しておいてください、それ」
「お願いします!」
満面の笑みでそう言う辻本君に、どこかうさんくささを感じる。
昨日の入り江でも、今日も、本当に絶妙なタイミングで俺と如月さんの会話に入り込んできた。
そして偶然か否か、俺が如月さんにアクセサリーを渡した直後に、シーグラスを細工して欲しいと頼んでくるとは。
ただ明るいだけで何も考えていなさそうに見える彼女も、実は意外と計算高い女なのかもしれない。
人は見た目によらないようだ。
手の中に閉じ込めたシーグラスがぐっと掌に食い込む感触がした。