第9章 嘘
翌日、ロッジの前で朝のトレーニングを終えた木手くんと出会った。
お疲れと声をかけた私に、彼はポケットからあるものを取り出した。
「これ、受け取ってもらえますか」
手渡されたのは、昨日入り江で木手くんが拾ったあのオレンジ色のシーグラスだった。
けれどただのシーグラスではなくなっていて、銀色のワイヤーがらせん状に巻きついたペンダントになっていた。
以前、雑貨屋さんで見かけたシーグラスのアクセサリーと同じような仕上がりで、まるで売り物みたいだった。
「これ昨日の?!すごく可愛い!木手くんが作ったの?」
「以前作ったことがあったので…どうせなら身につけられた方がいいかと思って作ってみたのですが」
「ありがとう!嬉しい、大事にするね」
「喜んでもらえて何よりです」
木手くんが嬉しそうに微笑むものだから、こちらまで嬉しくなってしまう。
早速首にかけて、胸元でゆらゆらと優しく揺れるオレンジを眺める。
「オレンジがよく似合いますね」
ペンダントに変わったオレンジ色の小さな欠片に指先でそっと触れながら、木手くんがまた優しく微笑んだ。
彼の指先が触れた箇所にじわりと甘い痛みが広がる。
少し苦しくも心地の良いその痛みを、少しでも長く味わっていたいと思う私がいた。
「おはようございます!」
明るく大きく響いた挨拶に、慌てて私は自分の感情を心の奥深くに必死で押し込めた。
「おはよ、彩夏ちゃん」
「おはようございます、辻本くん。朝から元気ですね、キミは」
「元気が取り柄ですからね!」
太陽のようにニカッと元気いっぱいに笑う彩夏ちゃん。
彼女の視線の先に佇む木手くんも彼女の明るさにつられてか優しく微笑み返している。
チクチクと痛む胸に気付かないフリをしながら、二人の邪魔にならないようにその場を立ち去った。