第8章 思わぬ出来事
さすが海のことには彼は詳しいようだ。
「如月さん、見つけましたよ」
木手くんがひょいっと私の手首をつかんで掌を上に向けさせ、そこに綺麗なオレンジ色のシーグラスをそっと置いた。
彼に触れられた部分が熱を帯びていく。
気持ちを気取られない様に、わざと大きな声を出す。
「わぁっ、綺麗!オレンジのシーグラス、初めて見た!」
大げさに喜ぶ私に木手くんは目を細めて微笑む。
「俺も初めて見ましたよ。かなり珍しいものだと思います」
「レアだねぇ~なんか嬉しいなぁ」
めったにないシーグラスが見つかったことも純粋に嬉しかった。
けれど、本当に嬉しかったのはそれを木手くんが見つけてくれて、私に手渡してくれたことだった。
「そんなに喜んでもらえるとは思っていませんでしたよ。…ふっ、可愛い人だ」
さりげなく発せられた木手くんの言葉に顔が真っ赤になる。
意識してか、はたまた無意識か――彼の真意は分からなかった。
その後もいくつかシーグラスを見つけ、私はそれをポケットに大事にしまいこんだ。
「うあーっ、腰が痛い…」
ずっと腰をかがめてシーグラスを探していたため、久しぶりに伸ばした腰が悲鳴をあげた。
痛がる私をよそに木手くんは涼しげな表情のまま、優しく私の腰をさする。
そうすることが当たり前かのように触れてくる木手くんに反して、いちいち私の胸は大げさにドキリと反応する。
木手くんに促されるまま岩場に腰をおろして、二人で海を見つめる。
「綺麗だね」
「そうですね…」
言葉を濁して答える木手くんの顔が一瞬曇った。
何が彼にそんな顔をさせたのか気になった。
「海、嫌いなの…?」
「いえ、好きですよ。好きですが、海を見ていると色んな感情が湧き上がってくるんです。楽しい思い出ばかりではないのでね」
その後木手くんがぽつぽつと語ってくれたのは、部活で強いられた理不尽な特訓の数々。
聞いているだけで顔をしかめてしまうような内容に、なんとも言えない気持ちになる。
そんな特訓を乗り越えてきたからこそ存在する仲間との絆、そして今の自分。
彼の胸中には複雑な想いが渦巻いていた。
「でも、やはり海はいい。沖縄に帰ったら、もう一度ゆっくりと眺めたいですね」
「…綺麗だろうなぁ、沖縄の海。私、沖縄行ったことないから行ってみたいな」