第8章 思わぬ出来事
「そっか…うん、そうだね。彩夏ちゃん男の人見る目あるね!木手くんだったら…きっと大事にしてくれるよ」
自分の気持ちに蓋をして、彩夏ちゃんに笑顔をむける。
そうだ、彼女と木手くんなら年も近いし、明るく元気な彼女とクールな彼はきっと似合いの恋人同士になれるだろう。
2人が隣り合って並ぶ姿を想像して、自分を納得させようと努力した。
きっと彼も。
私より彼女を選ぶに違いない。
元彼を吹き飛ばしてしまうほどの恋は、まだできそうにないや、と心の中で木手くんに向けてつぶやいた。
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考え事があると、ついこの浜辺に来てしまうようになっていた。
間近に聞こえる波の音を聞いていると、自分の悩みまるごと海にもっていってもらえるような気がする。
砂浜の砂を指先でいじっていると、キラリと緑色に光るガラス片にぶつかった。
「シーグラスだ…綺麗…」
角のとれた小さなガラスの欠片をしげしげと眺める。
他にも落ちていないのだろうかと思い、周辺を探すことにした。
「熱心に何をしているのですか?」
急にあたりがふっと暗くなり、それが眼前に来訪者が現れたことを示していた。
声に顔を上げると、木手くんが私を見下ろすように立っていた。
「ん?これ、探してるの」
言って彼に先ほど見つけた小さな欠片を差し出す。
私からそれを受け取って彼は欠片を光にかざした。
「あぁ…シーグラスですか。これはここよりも…ああいった場所の方が比較的見つけやすいと思いますよ」
木手くんが指さした先は、ここから少し離れた海岸伝いにある小さな入り江だった。
「そうなんだ。じゃああっちに行ってみる」
「如月さん、待ちなさい。俺もついて行きます」
「えっ」
「えっ、じゃないでしょ。海の近くは危険なんですよ。何かあった時一人じゃ危ないでしょうが」
有無を言わさず木手くんは私と連れ立って歩き出す。
彼が私を気にかけてくれているのがすごく嬉しかったけれど、それと同時に恥ずかしくもあった。
きっと彼は保護者のような感覚で私を心配しているのだろう。
色々と助けてもらってばかりだったこれまでのことを振り返って、そんな風に思った。
木手くんに案内された小さな入り江は砂利だらけだった。
彼が言うにはこういった砂利でガラス片の角がとれていくのだそうだ。