第8章 思わぬ出来事
『愛のゴーヤー戦士』というフレーズに笑いそうになるけれど、それが許されそうな雰囲気では、なかった。
木手くんの視線が2人から私へと移って、そのまま動かなくなる。
「如月さん、あなたもゴーヤーですよ」
2人と同じように木手くんは私も脅してきたが、あいにく私はゴーヤーが嫌いではなかったのでその脅し文句は通じないと思った。
「私ゴーヤーは平気だもん!」
「そうですか。ならば別のお仕置きを考えねばなりませんね。…覚悟はいいですか」
「ええっ~・・・・」
素直に謝ってそのまま黙っておけばよかったと後悔した。
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昼食後、彩夏ちゃんに呼び止められて話をすることになった。
私を呼び止める時のいつもの彩夏ちゃんと少し様子が違う気がして、何か重大な相談事でもあるのだろうかと考えを巡らせる。
「何か問題発生?」
「…問題というか…。相談、なんですけど」
「どうしたの?私に出来る事ならなんでもするよ」
妹のような存在になっていた彩夏ちゃんの『相談』という言葉に、深く考えずそう返事をしてしまったことを、後に私は後悔した。
「…私、木手さんの事が気になっているんです。協力してもらえませんか?」
彼女の言葉に思わず目が丸くなる。
「えっ、あっ、な、なんで私?」
「木手さんと親しいですし。それに美鈴さんだったら恋愛経験豊富だろうから、こういうことに強いかなって」
前者は否定できない事実だったが、後者は彼女が思っているほど大したことない、と否定したかった。
「…ダメ、ですか?」
返答のない私の顔をおそるおそる見つめる彩夏ちゃんの顔を見たら、とてもノーとは言えなかった。
「い、いや、恋愛経験豊富ではないけど…いいよ、出来る範囲で協力するよ」
「ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべてお礼を言う彼女に、胸がチクリと痛んだ。
「…でも、なんで木手くん?他にも男の子いっぱいいるのに」
そんな疑問がつい口をついて出てしまう。
心のどこかで彼を取られたくないと思う醜い私がいた。
「最初は怖かったんですけど…本当は優しくて仲間想いの人なんだって知って…それで…」
私だけじゃなかったんだ。
木手くんの本当の魅力に気が付いているのは。
嬉しいような寂しいような複雑な気持でいっぱいになる。