第7章 『薬』
ぽろぽろと涙が零れ落ちるのを止めることはできなかった。
何も言わずただ静かに私の話を聞いてくれている木手くんの目がとても優しかった。
「なのに、『やりなおしたい』、ってメールが来て。虫がよすぎるって、ありえないって思ったの。もう好きでもなんでもないと思ってたし。
だけどメールを読んで揺れる自分がいたの…バカだなって自分でも思うのに、なんでか気持ちが揺れ動いてて…自分で自分のことがよく分からなくなっちゃって」
溢れる涙に、木手くんがそっとタオルを差し出す。
小さくお礼を言って遠慮なしにタオルに顔をうずめて声を押し殺して泣いた。
「…馬鹿みたいでしょ、こんなことで悩んで眠れなくなって、君にも迷惑かけて」
タオルに顔をうずめたままくぐもった声でそう言うと、ゆっくり顔をあげて木手くんの表情を確認する。
さっきと変わらず優しい目をした彼は、少なくとも私の悩みに呆れてはいないようだった。
「…そういう傷を癒す一番の薬は『時間』だと思います」
「大人みたいなこと言うね」
目の前で私を慰めてくれている彼が14、5歳の少年には思えなくて苦笑してしまう。
けれど、木手くんが真剣に応えてくれているのは痛いほど分かっていた。
「そう、『時間』が一番の薬だと私も思う。でも…その『薬』が効かないうちはどうしたらいいのかなぁ…」
傷が癒えるまでの、今この時が一番苦しいのに、ただ時が過ぎるのを待つしかないなんて、今の私には酷なことだ。
今、この苦しさから解放されたいと、そう願っているのに。
そんな私の問いに答えがあるとは思っていなかったし、期待もしていなかった。
けれど木手くんは真剣な顔でしばらく考え込んで、ゆっくりと口を開いた。
「……ひとつだけ…方法がありますよ」
「どんな?」
「…新しい恋をすることです」
至極真面目な顔でそういう木手くんだったが、彼の発言とのギャップが大きくてびっくりしてしまった。
「こ、恋かぁ…」
「昔の男など吹き飛んでしまうほど、恋に溺れてしまえばいい」
木手くんの眼鏡がキラリと光り、そこからのぞく彼の目に不穏な光が宿ったように見えた。
彼の言葉とその姿が相まって、不覚にもときめきに似た感情を彼に抱いてしまう。
その想いをかき消すように私は言葉を紡ぐ。
「でも…そう簡単にはいかないよ…」