第7章 『薬』
「なんなら試してみますか?」
言ってにじり寄ってくる木手くんの顔。
予期せぬ言葉に私の心臓は飛び跳ね、彼が距離を詰めてくる分思わず体をひいてしまう。
「…冗談ですよ」
くっ、と喉をならして笑った木手くんは詰め寄った距離をゆっくりと離していった。
不敵な笑みを浮かべる彼の気持ちはその言葉とは裏腹のように思えた――いや、そうだといいと私が望んだからそう思えたのかもしれない。
「大人をからかわないでよね」
「あなた大人なんでしたっけ?」
からかうようにそう言う彼の目が細められ、口角が緩やかに持ち上がった。
その表情はずるい、と思った。
『きっとあなたにもいいことあるわよ、美鈴』
旅行前に母が言っていた言葉が頭の中に響いた。
こんなに簡単に、人を好きになってもいいのだろうか。
落ちるのは一瞬―――けれどその相手は――。
私より6歳も年下の知り合って間もない男の子だった。