第7章 『薬』
「どうしました?これ、落ちましたよ」
木手くんが転がったままだったスマホを拾い上げて、私へ差し出す。
まだ画面にはメールの数が浮かび上がったまま。
そこから目を離せないでいる私に、木手くんは視線をスマホの画面へと移した。
「ああ…メールですか?ここは電波が届いていないようですから、返信も何もできませんね」
私の事情なんて何も知らない木手くんはごく普通のことを言っただけに過ぎない。
だけど彼の言葉は私の中で抑えていた感情を破るのに十分だった。
ぽろぽろと涙が目から零れ落ちていき、それを目にした木手くんが驚いた顔をする。
微動だにせずただ静かに涙を流す私に、甲斐くんや平古場くん達も寄ってきて「どうしたんだ?」と声をかけてくる。
その心配そうなみんなの声にうまく答えることができないまま、私は俯いてしまった。
「どこか、具合でも悪いのですか?」
ふるふると黙ったまま首を振る私に、木手くんは続けて問う。
「…俺が何か気に障るようなことでも言いましたか?」
木手くんの綺麗に整えられた眉が力なく下がっている。
俯いて黙ったままの私を心配そうにのぞきこんでくる木手くんの手が、優しく肩に置かれる。
睫毛を伏せて彼の目を視界から遮断する。
まっすぐに私を見つめる彼のまなざしは、今の私に受け止められるものではなかった。
きっと、たかが『失恋』だと──、君は一笑に付すだろう。
自分でも情けないと思うのに、5、6歳年下の、まだ中学3年生の君にとってこんな私の気持ちなんてくだらないものでしかないだろう。
『そんなことで悩んでいるのですか』と木手くんがそう呆れた声で言っている姿が目に浮かぶ。
「やー、大丈夫か?なんか顔色もよくねぇやんに」
「甲斐クン、平古場クン、すみませんが君達で食料を集めておいてもらえますか?俺は彼女をロッジに連れて行ってきます」
「あいよ。如月さん、無理しちゃいけないさー」
「ごめん、大丈夫だよ…。ちょっとぼうっとしちゃっただけ!ほら、昨日よく眠れなかったし!」
それまでの空気を振り切るようにブンブンと腕を振って「さぁやるぞー!」とお腹から声を出す。
明らかに空元気なのが分かったのだろう、3人とも私を見て困った顔をしていた。
「じゅんになー?(本当に?)大丈夫そうには見えねーんけど?」