第1章 終わって始まる
引き連れていかれる黒髪の少年のつぶやきに、思わず大きな声で反応してしまった。
「ええっ、中学生だったの?!?」
「…どういう、意味でしょうか」
黒い帽子の男性、もとい少年がギラリとした目でこちらを睨む。
他の黄色いユニフォームの少年たちは必死に笑いをこらえているのが目に入った。
肩をぶるぶるふるわせて、今にも噴き出しそうだった。
「ご、ごめんね!あまりにも威厳があったから!せ、先生かと思って…いい意味で大人びてるな、って」
最後の「いい意味で」は蛇足だったか、と自分でも思った。
そう付け足すことによって、さらに彼のことを「年相応に見えない」と思っていることが強調される気がした。
「ですよね~!」
あっけらかんとそう言う黒髪の少年に、帽子の彼が「赤也!」と怒鳴った。
「少し静かにしてもらえませんかね。君の怒号は頭に響く」
私の後ろから静かだけれどよく通る声がした。
振り返ると、そこには中学生と思うには少し異様な様相の少年達がいた。
紫の袖のないユニフォームを身にまとっているところからして、彼らも中学生に違いないだろう。
先ほどの発言をした少年は髪をきっちりとリーゼントにまとめ、ハーフフレームの洒落た眼鏡をしていた。
彼も、黒い帽子の少年とはまた違った、およそ中学生らしくない容貌と雰囲気をまとっていた。
「比嘉中の…木手、か」
「おや、名前を知ってもらえているとは光栄ですね、立海の真田君」
言うなり、あたりに不穏な空気が漂ったような気がした。
そういえば彼らは全国大会を控えたテニス部員達であることを、ふと思い出す。
学校の違う生徒は、いうなればライバルである。
こんな空気になるのも無理はない。
いくらこれからともに合宿するといっても、全国で勝敗を決めるライバル同士なのだから。
「わ、私は如月美鈴と申します!氷帝の榊監督の姪で、榊監督のご厚意に甘えて乗船させていただいております!ちなみにマネージャーではなく、南の島へ旅行の予定です!」
重たい空気を打開したかっただけなのに、何故か私は声高らかに自己紹介をしてしまっていた。
あたりの空気はたしかに軽くなったような気がしたが、少年達の突き刺さるような視線にいたたまれなくなる。
南の島へ旅行、なんて彼らにとっては至極どうでもいい情報まで、付け足してしまった。大声で。