第1章 終わって始まる
しん、と静まり返った空気が痛い。
顔がみるみるうちに赤くなっていくのが分かる。
考えなしに言葉が口をついて出てしまうのが、私の悪い癖だ。
「は、はぁ…そうですか…」
木手、と呼ばれたリーゼントの少年が毒気を抜かれたように声を出した。
彼の後ろにいた同じ比嘉中の少年の中で、髪の長い少年がプッと噴き出すと、つられたのか立海の少年達も笑い出した。
「おねーさん、おもしろいッスね」
「あ、ありがとう?」
お礼を言う場面ではない気がしたが、一応褒められたのでそう答える。
赤也くんが片腹を抑えながら言うのを見て、やはり自分の発言がとてつもなくズレていたことを思い知らされる。
「永四郎がうんぐとぅちらすんぬ(こんな顔するの)初めて見るよ。なぁ、裕次郎」
比嘉中の長髪の少年がケラケラと笑いながら、彼の後ろの、裕次郎というキャップを被った少年に同意を求める。
「たしかに、でーじレアやんなー」
裕次郎くんはうんうんと激しく頷き、私に「やー(あんた)、ある意味ちびらーさん(すごい)やし」と言った。
なんと言っているのかイマイチよく分からなかったが、手放しで喜んでいいような発言ではないことは、なんとなく分かった。
「と、とにかく、なんかお騒がせの元になってごめんなさい」
ぺこっと、立海方面と比嘉方面の双方に頭を下げた。
「いや、もとはと言えばうちの赤也が…」
「もう、いいですから。それより先、進んでもらえると嬉しいのですが」
立海の真田くん、比嘉中の木手くんそれぞれが口を開く。
木手くんの言葉の方が若干遅れたため、彼の言葉を聞き、船の入口に目をやった真田君が慌てて荷物と赤也君を抱えて歩を進めた。
それに続いて立海の面々も止めていた足を動かす。
私達が色々と揉めていた間に、前に並んでいた少年たちはすでに船内へ入ってしまっていたようで、船の入り口と私達の間には長い空白が出来ていた。
「…先が思いやられますね…」
そんな小さなつぶやきが、背後から私の耳に届いた。
声だけ聞くと木手くんはまるで大人のようで、不思議な感覚にとらわれたまま、私は船内へ続く階段を上って行った。