第1章 終わって始まる
港が近づいてきた頃、スマホがブルブルと小さく震えた。
画面が明るく光り、ディスプレイに現れた白い文字に頭が真っ白になった。
「…今更、なんなの」
見たくもない名前を目にして、思わず口から憎々しげな声が漏れた。
元彼の名前の浮かんだディスプレイから目をそらし、スマホの電源を落とした。
カバンの奥にしまいこんで、小さく息を吐いて、外の景色に意識を飛ばす。
大きな白い豪華客船が見え、私は思わず詠嘆の声をもらした。
「すごい…」
車を降りて、客船に近づく。
見上げても見上げても上の方は見えず、その大きさに改めて吃驚する。
「美鈴くん、こちらから乗船するよ」
後ろから叔父さんに声をかけられ、はい、と短く返事をして叔父さんの後について行く。
叔父さんの歩の先には、ぞろぞろと長い列が出来ていた。
きっと合宿に向かうテニス部の中学生達だろう。
色とりどりのユニフォーム姿が眩しく見えた。
「すまないが、乗船の際色々と確認もあるのでこの列に並んでもらってもいいだろうか」
「はい、分かりました」
「私は他の学校の監督と話があるから、また後で」
列の最後尾に言われた通りに並び、順番を待とうとした。
すると、前に並んでいた黄色いユニフォームの少年がくるりとこちらを振り返った。
「あれ?なんで女の人が並んでるんスか?」
うねうねとした黒髪の少年がそう言うと、その少年の前に並んでいた同じ黄色いユニフォームの子達もこちらを振り返った。
「ほう?なんでじゃろうな?美人なお姉さんじゃのお」
「ふむ…先ほど氷帝の榊監督と共に行動していた女性だな。氷帝の関係者なのではないか?」
「マネージャーとか?…にしては年上すぎかぃ?」
「お前達、そんなにじろじろ見ては失礼だろう!」
黒い帽子のいかつい男性がそう一喝すると、ざわざわとしていた黄色い少年達が静かになった。
「うちの部員が失礼しました」
小さく頭を下げ、黒い帽子のてっぺんがこちらを向く。
その落ち着き払ったたたずまいに、私は、彼は引率の先生に違いないと思った。
「…ねぇ、アンタ氷帝のマネージャなの?」
目の前の黒髪の少年がこっそりと私に聞いてきたのだが、黒い帽子の男性に再び一喝され、さらにその男性の前へと無理やり連れて行かれてしまった。
「地獄耳すぎるッス、副部長…」