第6章 距離
これで彼らが孤立してしまうことはないだろう。
だからといって馴染むこともないだろうから、救助が来るまで彼らのことで気を揉むことに変わりはないだろうが。
「じゃあ向こうのみんなにそう伝えておくね。」
「…いえ、それは俺が自分で言いに行きましょう」
言って木手くんは跡部くん達がいる海辺の集会場の方へと歩き出した。
思わず私は彼の後を追ってしまったが、そんな私を見ても木手くんは特に言及することなく、目的地へと歩を進めた。
拒絶されなかったことに気をよくした私は、満面の笑みで木手くんに話しかけた。
「ありがとうね、木手くん」
「?何がですか?」
私の発言の意図を計り兼ねているのか、眉根を寄せながら言う木手くんに、私は笑って答える。
「なんだかんだ言って、私の言う事聞いてくれて」
「別に…あなたの提案と俺達の利害がたまたま一致したまでです。…それにしても、本当にあなたはおせっかいな人ですね」
「そう…?いや、これでも成人だし…みんなの面倒見るのは当たり前じゃない?」
「…俺はあなたの面倒を、結構見ているような気がするのですが。気のせいでしょうか?」
「う、それは…気のせいではないです。色々お世話になっています…迷惑もかけております…ごめんなさい」
萎んでゆく風船みたいに小さくなる私を見て、木手くんが小さく笑った。
「まったく…おかしな人だ、あなたは」
いつもの涼しげな木手くんの顔が、少しだけ柔らかい表情を見せた。
また少しだけ彼との距離が近づいた気がして、嬉しくなる。
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「なんだ?二人して連れ立って」
集会場でまだ何やら作業をしていた跡部くんは、暗がりから出て来た私達を見て不敵な笑みを浮かべていた。
「跡部くん、明日からミーティングには俺達も参加することにします」
「ほう。ずいぶんと心変わりの早いことだな。」
「勘違いしないでください。俺達が譲歩するのはここまでです。それ以上の干渉はお互いに無用だ」
「ふん、まぁそれでいい。…にしても、木手、お前は美鈴の言う事なら素直に聞くみてぇだな。ミーティングに参加するように促したのも、どうせこいつだろう」
「提案してきたのは確かに彼女です。が、別に俺は彼女の言う事だから聞いたわけではない。たまたま俺達の利害と一致しただけです」