第1章 終わって始まる
「とにかくそれでね。あなたもその船に乗せてもらって、南の島まで連れて行ってもらえるって。ほら、今からじゃどこの代理店もチケット取れないでしょう?」
「まぁ、それはそうだと思うけど…でもいいの?テニス部の中学生達ばっかり乗ってるんでしょ」
「あと2人女の子も乗るって話よ?その子達も中学生だけど、南の島に行くんですって。だから部外者が乗ってもいいんじゃない?まぁあなたは太郎叔父さんの姪っ子だから全くの部外者ってわけでもなし」
うーん、とはっきりしない返事をする私に、母は封筒といくつかの書類を私の前に置いた。
母の勧める南の島の観光案内のものや、持っていくもののリスト(子供じゃないのに…)、封筒の中にはいくらかお金が入っていた。
「とにかく行ってきなさいよ。家でうじうじされてもお母さん困るし」
「ええ…薄情じゃない、それ…」
「もうね、こんな時はパァーッと遊ぶに限るのよ!彼氏のことは交通事故にでも遭ったと思いなさい!何よりこの南の島は私とお父さんが出会った運命の島でもあるんだから…!」
「えっ、それ初耳!」
両親の馴れ初め話など、今まで耳にしたことがなかった。
南の島で出会ったなんて、なんだかロマンチックだ。両親にそんなロマンスがあったなんて…なんか想像つかない。
「うふふ、だからきっとあなたにもいいことあるわよ、美鈴」
母なりに、私を心配してくれているのは痛いほど分かっていた。
私より彼氏に対して怒ってくれたのは母だったし、一緒に夜明けまで泣いてくれたのも母だった。
「…分かった。私行くよ、旅行。…ありがとう、お母さん」
「のんびりしてくるといいわよ、綺麗な海を見るだけでも癒されるから」
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慌ただしく荷造りを終えて、出発当日の迎える。
太郎叔父さんが車で迎えに来てくれて、そのまま港へと向かった。
「太郎叔父さんありがとうございます。合宿の為の船なのに…それに急なお願いを聞いてもらって」
「いや、美鈴くん1人乗っても大した支障はない。キミは何も心配しなくていいんだよ。…ゆっくり羽を伸ばしてくるといい」
叔父さんはきっと母から何か聞いているに違いない。
けれど特にその話題に触れることはなく、車は静かに港へと走り続けた。