第6章 距離
「なぁなぁ、あとはメシ食ってからにしねぇ?腹減ってしょうがねぇよ」
丸井くんがそう言うと、同意の声が次々にあがる。
言われてみれば私のお腹も限界を迎えていた。
朝から水以外何も口にしていなかったことを思い出すと、空腹がさらに増し、ぐるぐるとお腹の虫が鳴り出した。
「そうだな。よし、じゃあ手分けして食材を調達しろ。おい、美鈴と辻本。お前達は俺達と調理をやってくれ。」
いきなり名指しでそう言われ、目を丸くしたけれど、すぐにはいはい、と短く答えて調理場へ向かうことにした。
氷帝の子達は器用な子が多いけど、料理となるとやはり女手があった方が何かと都合がよいだろう。
その場をあとにする前に、隣に座っていた木手くんに念を押すように一言だけ声をかける。
「木手くん、今だけは協力してね」
「…分かりましたよ。そんな目で念押しせずとも協力します。ただし、今回だけですよ」
木手くんはそう言うけれど、先ほどまでの彼の様子を見ていると少し心配になる。
けれどさすがの彼らも空腹には勝てないようで、特に波風をたてることはなかったようだ。
「ちょっと、じろちゃんここで寝ないで!危ない!」
「おい、誰だよ慈郎ここに連れてきたヤツ…」
「樺地、その辺に転がしておけ」
「ウス」
調理場はまさに戦場と化していた。
海と山に人数が分かれたとはいえ、20人近い人数分の食事を作るのは想像以上に骨が折れた。
これが毎日毎食続くのかと思うと、ちょっと憂鬱な気分になる。
料理ができないわけではないが、すごく得意というわけでもない私にとってはあまり喜ばしいことではなかった。
次から次に持ち込まれる食材を前に必死に調理法を考える。
中には調理法を指定してくる子までいて、頭が痛くなる。
全員の好みに合わせることはできないので、少し薄めに味付けをする。
濃い味が好きな子は、あとで調味料を自分で足してもらえばいいだろう。
怒涛のように作業を済ませたころには、もうクタクタだった。
額に玉のように浮かぶ汗が、ポタポタと落ちて床にシミを作る。
「…お疲れ様です。これをどうぞ」
声に振り返ると、木手くんがコップ一杯の水を私に向けて差しだしていた。
全く予想していなかったその光景に、私は思わず目を丸くした。