第6章 距離
なるだけ明るい顔でそう言うと、木手くんはやれやれといった風に小さく首を振った。
「面倒な人だ。…まぁ…いいでしょう。言い合うのも時間の無駄だ」
思ったよりもあっさりと木手くんが私の申し出を受け入れてくれたことに拍子抜けしてしまう。
彼は意外と押しに弱いのかもしれない。
…いや、こうやって押し問答するのが至極面倒だっただけだろう。
理由はなんにせよ、受け入れてもらえたことがうれしくて思わず頬がゆるむ。
木手くんと一緒にロッジに向かい、木手くんがドアを開けようとした。
けれどドアはガチャガチャを音をたてるだけで、ビクともしなかった。
「む、鍵がかかっていますね。すみませんが、少し離れていてもらえますか?」
鍵の束が向こうのロッジにあった気がして、鍵のことを言おうと思った瞬間、目の前で豪快な音が響いた。
木手くんのすらりとした長い足が綺麗にまっすぐ伸びて、ドアを蹴破っていた。
思ってもいなかった木手くんの行動に私の目は真ん丸になっていた。
「さ、中を見ましょうか」
あまりにも平然としている木手くんに私は何も言えなくなってしまった。
規格外すぎる…目の前の彼はあまりにも…。
黙ったまま彼の後に続いて、ロッジ内を手分けして探索する。
「サーフボード、水中眼鏡、ウェットスーツ、シュノーケル…うーん遊びの道具みたいだね」
「そうですね…銛でもあれば漁ができそうですが。ここに銛はないようですね」
他にはこれといったものはなく、木手くんに続いてロッジを後にする。
そういえば、見つけたものは報告してリストにまとめる、と跡部くんが言っていたのを思い出す。
「跡部くんに報告してくるね」
「報告?その必要はありませんよ」
「えっ?」
「何度も言っているでしょう。俺達は俺達で勝手にやると。ここで見つけたものは我々の物だ」
「うーん、でも…こんな状況だし、みんなで協力できるところは協力した方が…」
「必要ありません。我々だけで十分です。逆に足を引っ張られるのがオチだ。…ああ、それともあなたはそれを狙っているのですか?」
まるで値踏みでもするような目で、木手くんが私を見つめている。
木手くんが何を勘違いしているのか知らないが、今の彼の目はあまり気分のいいものではない。
「あのさ、何か私のこと疑っているようだけど──」