第5章 無人島
平然とそう言い放った甲斐くんに、みんなびっくりした目で彼を見て、すぐに怒りの眼差しを彼に向けだした。
人を挑発してしまうのは、木手くんに限らないようだった。
どうも比嘉中の子達はそういう気質らしい。
だから木手くんが幾度となく他の子達を挑発する姿を目にしても、止めもせずただ見ていたのか、と納得する。
「はいはい、そこまで!甲斐くん、そういうこと軽々しく言わないの。こんな状況なんだから、争いはやめて。仲良くしろとは言わないけど、いがみ合ってもいいことないでしょ。」
「…ごめんちゃい」
軽いうわべだけの謝罪に、また周囲の空気がピリッとする。
私は目で甲斐くんに「そういう態度はやめなさい」と無言の圧力を送った。
甲斐くんは肩をすくめて、それ以上は何も言ってこなかった。
「フン、とにかくあのロッジの中を探索するか。おい、まだ隅々までは見てねぇだろ?」
跡部くんは木手くんに視線を送り、確認する。
そうですね、とだけ木手くんは返した。
みなで、一番大きなロッジへ足を踏み入れる。
適当にそれぞれ分かれて、部屋をくまなく調べた。
「鍵の束があった」
「こっちには地図も」
あちこちで様々な物が見つかった。
しかしこれと言って他の大人ー、監督達や船員達の所在を示すようなものはなかった。
「人がいた形跡は…ないな…」
「ここしばらく使われてなかったみたいだからな」
そう言った跡部くんの言葉に、柳くんがピクリと反応する。
「…何故、そんなことを知っている?」
問いかける柳くんの言葉は、どこか跡部くんに対して疑いを抱いているような感じがした。
その疑いが一体何なのか、検討つかないが…柳君の言葉に、一瞬だけ、跡部くんの顔が曇ったように見えた。
その跡部くんの反応に、私は違和感を覚える。
失言をしてしまった、と跡部くんが思っているように見えたからだ。
跡部くんの先ほどの発言を何故彼自身が「失言」だと思ったのだろうか。
頭の中にモヤモヤとしたものが浮かんでくる。
「…榊監督から聞いたからな。ここは榊グループの所有する島だからな」
「それでここが合宿所の舞台に選ばれたってわけですね」