第5章 無人島
もともと彼は人と慣れあうことは望んでいなかったのだろう、それは彼の今までの言動を見ても明らかだった。
なのに、何故か自分は木手くんと仲良くなれるような、いやもう仲良くなっているような気がしていた。
それは単なる私の思い上がりだったのだと、彼の冷ややかな態度で気づかされる。
「永四郎、そんな風に言わなくてもいんじゃねー?なんか急に如月さんに冷たくなってねーか?」
「そんなことありませんよ。…彼女は氷帝の関係者だ。そもそも、俺はあまり信用していないのですよ」
「信用?どういうこと?」
冷たく響く木手くんの言葉に疑問を投げかける。
迷惑は幾度となくかけたけど…そこまで言われるほど迷惑に思われているとは思っていなかった。
さっきだっておぶってくれたのに。
…ああ、それすらも迷惑に思っていたということか…。
「おかしいと思いませんか?全国大会前に、急にこんな合宿を企画して、あまつさえ遭難…何か、出来過ぎていると思いませんか?…あなたは何か知っているのではないですか?」
「おかしいって何が…?知ってるって…私には何のことか、さっぱり…」
「まぁ、いいでしょう。とにかく俺達はこれ以上慣れ合う気はない。放っておいてもらっていいですかね」
「永四郎…なんか変やっしー…」
小さく平古場くんがつぶやいたが、それには木手くんは返事をせず、踵を返して木々の中へと消えて行った。
「きっと腹でも痛くなったんさー!それでイライラしてるんさぁ。あんまり永四郎の言う事気にし過ぎるなーよ、如月さん」
甲斐くんと平古場くんが私を励ますようにそう言った。
そして2人も木手くんの背中を追って走り去って行った。
「おい、比嘉中のやつらは?」
後ろから跡部くんの声がした。
振り返ると私の顔を見た跡部くんが怪訝そうな顔をした。
自分でも今は情けない顔をしていると思う。
木手くんが急に冷たくなったのように感じたのが、なんだかとても悲しいのだ。
近づけたと思っていたのは、私だけだったのが、悲しい。
「あ…跡部くん。…あっちに行っちゃった。慣れあう気はないから放っておいて欲しいって…」
「あいつら…美鈴を任せたっていうのに…。まぁいい、後で話をつけに行く。とりあえず合宿所を目指す。…美鈴、もう大丈夫なのか?」